高齢者のための雇用延長
安倍政権が、70歳までの雇用について検討を始めた。2020年の高齢者雇用安定法の改正を目指すが、高齢者のために多様な働き方ができる制度の構築が求められる。
今の高齢者は、一昔前の高齢者と異なり、政府の資料によると「今の70代前半の高齢者の能力は14年前の60代後半と同じ」という。例えば、歩行速度をみると、2006年までの10年で10歳若返ったとのデータがある。2006年時点の70~79歳の男性の歩行速度は秒速で1.29メートルだが、これは1997年時点の65~69歳の男性の歩行速度と同じ。
2006年時点の70~79歳の女性の歩行速度は秒速で1.22メートルだが、1997年時点の65~69歳の女性の歩行速度が同1.24メートルでほぼ同じだ。つまり、高齢者と一口に言っても、その体力、運動能力などはこの10年、15年で5歳ぐらい若返っている。
また、60歳以上の約8割が70歳以降まで働くことを希望しているという調査結果もある。
以上のことを考えれば、高齢者は健康面でも働ける能力があり、また働きたいという意思がある。
メディアは今回の検討を、社会保障財源の安定化が狙いなどと書いている。もちろん、その側面があることは事実だろう。事実、原則65歳となっている受給開始年齢は引き上げないが、受給開始年齢を70歳以降も選べるようにする仕組みを検討するという。また、人手不足の緩和に活用したいという考えもあるだろう。
しかし、働きたい高齢者に就業の場を確保するということは、まず、高齢者にとってとても意義深いことと捉えるべきなのだろう。
何も、高齢者は茶の間でテレビを見ながら、日がな一日暮らしたいと思っているわけではないだろう。働きたいという意欲を持っている人はたくさんいるのだ。
ただし、65歳以上労働者の多くは、「自分の都合の良い時間に働きたいから」という思いを持っているため、現在も非正規を選択しているケースが多い。だから、一つの会社だけで継続雇用をするのではなく、別の企業に移って働き続けられるようにするなど、多様な働き方の提示が不可欠となる。
いずれにしても、安倍政権は、働き方改革にしても、雇用延長にしても一つの時代を画すような課題に意欲的にチャレンジしている。それが今後の日本社会の基礎となる。当事者となる多くの高齢者に、こうした取り組みを知ってもらう必要がある。