動き出す高性能半導体生産の活性化
臨時国会では補正予算ばかりが注目されたが、「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律(5G促進法)」と「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)法」の重要な法改正が行われた。半導体の国内生産を政府が資金支援するための改正で、岸田政権が進める経済安全保障に直結する高性能な半導体の国内生産を確保するのが狙いだ。
半導体製造と言えばかつては日本のお家芸だったが、現在は世界シェアで10%にも満たない。その中で世界各国は、安全保障の観点から半導体という重要な生産基盤を囲い込む産業政策を展開している。
米国では1件最大3000億円の補助金があるほか、5.7兆円の半導体関連投資を含む「米国イノベーション・競争法案」が上院を通過している。中国では中央政府が5兆円を超える投資を実施しているほか、地方政府でも5兆円規模の基金を用意している。
また、欧州では2030年に向けたデジタル戦略を策定し、半導体や量子通信インフラなどに約17.5兆円の投資を進めるほか、今年9月には欧州の画期的技術のための新たな市場を発展させる「欧州半導体法」の制定を宣言。韓国は5月に、総合半導体大国実現のための「K-半導体戦略」を策定している。
各国がこうした取り組みを進めるのは、デジタル化の進展で、自動車や医療機器などさまざまな分野で高性能な半導体の活用が拡大するためだ。その一方、例えばアジアの〝半導体生産工場〟となっている台湾など特定の製造拠点に依存すると、地政学的な事情などからグローバルなサプライチェーンが影響を受けるリスクがある。
このため、各国は安全保障上の脅威などへの有効な対応策として、先端技術の研究開発・活用を強力に推進している。
このため岸田内閣は経済安全保障担当相を置き、11月には第1回経済安全保障推進会議も設置、経済安全保障の取組を強化・推進するために必要な法案の在り方について議論する「経済安全保障法制に関する有識者会議」を開催している。
今回の法改正は、こうした状況を踏まえ、事業者による高性能な半導体の生産施設整備などへの投資判断を後押しし、国内での安定的な生産の確保を促進するのが目的。高性能な半導体生産施設整備などに関する計画認定制度の創設や、認定された計画の実施に必要な資金に対する助成金の交付、助成金交付のための基金の設置などを規定している。
助成金額は必要な資金の2分の1を上限とし、NEDOに設置する基金から交付する。21年度補正予算では基金の経費6170億円を計上している。半導体受託製造の世界最大手とされる台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県で計画する新工場が適用第1号となる見通しとなっている。
高性能な半導体生産をめぐり各国は熾烈な競争を展開している。メディアなどでは法改正についてほとんど報じられないが、こうした施策の一つ一つが成長戦略であり、日本の行く末を決定していくことになる。
(terracePRESS編集部)