韓国で元徴用工の法案が廃案に
旧朝鮮半島出身労働者、いわゆる元徴用工問題の解決に向けて韓国の国会に提出されていた法案が審議されないまま廃案となる。法案は日韓企業などからの寄付金で「慰謝料」を支給することを規定しており、日本としては到底受け入れることができない内容だった。
日韓両国とも新型コロナウイル感染症の対応で、元徴用工問題は注目されていないが、元徴用工への賠償を認めた韓国の最高裁判決で、韓国による日韓請求権協定という国際法違反の状況が続いていることには変わりはない。
元徴用工への判決以降、日本の韓国に対する輸出管理運用の見直しや、その報復としての韓国による日本製品の不買運動や、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄など、さまざまな動きがあった。
廃案となる法案は、文喜相国会議長が日韓両国の企業や個人による自発的な寄付で基金を創設、元徴用工らへ支給するというもので、韓国側には裁判の原告らが差し押さえた日本企業の資産売却を回避できるとの期待も一部にあったという。しかし、原告や政府からの反対もあり、審議にさえ入れなかった。
そもそも、日韓請求権協定では、第2条で「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第4条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」「一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする」と規定している。
これをわかりやすく言えば、例えば韓国政府が日本政府に対して何らかの請求をすることはもちろん、韓国国民が日本政府や日本国民(個人や企業)に対して何らかの請求をすることはできないということだ。
一方の締約国、今回の場合は韓国だが、韓国国民の請求権に基づく請求に対して、日本国と日本国民の法律上の義務は消滅していることになる。そして、この規定はそれぞれの国に適用されることとされているのだ。
だからこそ、法案では「自発的な寄付で基金を創設」することが規定されていたわけだが、自発的であっても、日韓請求権協定の趣旨からすれば、日本側が受け入れることは不可能だ。
2020年版の外交青書では、韓国について「重要な隣国」との表現を3年ぶりに復活させたが、今後、原告らが差し押さえた日本企業の資産を売却するようなことがあれば、日韓両国の関係は再び厳しいものにならざるを得ない。
(terracePRESS編集部)