規模拡大は進むが、依然として高齢者頼りの国内農業
あまり注目されないが、菅政権の政策の一つに強い国内農業の育成がある。菅首相は今国会の所信表明でも農産物などの輸出強化を表明しており、日本人の食を守るという視点は当然だが、それに加えて日本の輸出産業の一つとして農業の活性化を図る考えだ。しかし、国内農業は依然として〝高齢者の産業〟となっており、一層の構造改革が求められている。
菅首相は今国会の所信表明演説で「日本の農産品はアジアをはじめ海外で根強い人気があり、輸出額はまだまだ伸ばすことができる。2025年に2兆円、2030年に5兆円の目標に向けて、当面の戦略を年末までに策定し、早急に実行に移す」などと述べている。
また、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」でも「海外向け商談・プロモーションを支援」や「今後の海外展開やインバウンド対応を見据え、生産・供給体制を維持するための一時的な保管や販売促進等の取組を支援」などと支援策を盛り込んでいる。
ところで、その国内農業は現在、どのような構造にあるのだろう。農水省は5年ごとに農林業を営んでいるすべての農家、林家や法人を対象に調査する農林業センサスを行っているが、今年がその実施年に当たり、先ごろ2月1日現在で調査した「2020年農林業センサス」を公表している。
それによると、全国の農業経営体は107万6000経営体で5年前に比べ21.9%減少した。経営耕地面積をみると、5年前に比べ北海道では100ヘクタール 以上で、都府県では10ヘクタール以上で増加しており、その結果、1経営体当たりの経営耕地面積は北海道で30.6ヘクタール、都府県が2.2ヘクタールとなり5年前より北海道が15.5%、都府県が19.3%の増加となっている。
農業経営体の経営主体をみると、個人経営体は103万7000経営体で、5年前より22.6%減少した一方、団体経営体は3万8000経営体となり2.6%増加している。
以上のような状況をみると、農業経営体は減少しているものの、規模拡大や法人化が進んでいることが分かる。これだけをみれば、個人の農業者から法人へ、零細から規模拡大へという農業再編は進んでいる。
しかし、個人経営体を主副業別にみると、副業的経営体だけでなく、準主業、主業いずれも減少しているほか、個人経営体の基幹的農業従事者のうち65歳以上が占める割合は69.8%となり、5年前より4.9ポイント上昇している。個人農業の脆弱化は進んでいるのだ。特に注意しなければならないのは、15歳から49歳の経営体も減少していることだ。7割近くの65歳以上の人々がリタイアする時期はそう遠くないことは明らかで、決して、順調に再構築が進んでいるとは言えない。65歳以上の方々がリタイアするまでの間に国内農業の再構築が不可欠となる。
当然のことながら、日本は国内農業だけでは賄いきれないため、多くの食料を輸入している。しかし、輸入が可能となっているのは日本に経済力があるからにすぎない。国内農業を維持、発展させることは、日本の食を守り、日本人の生命を守ることでもある。
(terracePRESS編集部)