成長と分配の好循環作る最低賃金の引き上げ
厚労省の中央最低賃金審議会の小委員会が先ごろ、2019年度の最低賃金(時給)の引き上げ額を、全国の加重平均で27円引き上げ、901円とすることを決めた。901円は〝目安〟で、実際はこれを踏まえて都道府県の審議会が決めるが、目安を前提にすれば最も高い東京都は1013円、次いで高い神奈川県は1011円となり、初の1000円超えとなる。
引き上げ額は昨年度の26円を1円上回り、引き上げ率3・09%で、3%以上の引き上げは4年連続になった。最低賃金が日額から時給で示されるようになった2002年度以降では最大の引き上げ額だ。
安倍政権が最低賃金の引き上げを着実に進めているのは、地方を中心に所得の底上げや個人消費の喚起を行うためだ。政府が6月に決定した「経済財政運営と改革の基本方針 2019」(骨太方針)でも、「この3年、年率3%程度を目途として引き上げられてきたことを踏まえ、景気や物価動向を見つつ、地域間格差にも配慮しながら、これらの取組とあいまって、より早期に全国加重平均が1000 円になることを目指す」としていた。
パートやアルバイト、中小企業などで働く人の時給は、最低賃金と連動するため、政府が最低賃金の引き上げに積極的なことは、そうした人たちの所得の増加となる。その所得の増加が消費に回れば、賃上げを通じて消費を活性化していくことになる。
一方、賃金の引き上げが中小企業などの重荷になることも事実だ。立場の弱い下請け企業などは雇用している人の賃金の上昇分を自ら負担せざるを得なくなるという懸念がある。事実、日本商工会議所の三村明夫会頭は、今回の目安について「中小企業の経営、地域経済に及ぼす影響を懸念する」とコメントしている。
しかし、この点についても、骨太方針では「経済成長率の引上げや日本経済全体の生産性の底上げを図りつつ、中小企業・小規模事業者が賃上げしやすい環境整備に積極的に取り組む」「下請中小企業振興法42に基づく振興基準の更なる徹底を含め取引関係の適正化を進め、下請事業者による労務費上昇の取引対価への転嫁の円滑化を図る」などとしており、バランスをとった成長と分配の循環を作り出す考えだ。
つまり、賃上げは重要なことは間違いないのだが、中小企業や地域経済に悪影響が出ないような環境を整備することも不可欠ということだ。
最低賃金と言えば、立憲民主党は参院選での経済政策「ボトムアップ経済ビジョン」で、最低賃金を5年以内に時給1300円に引き上げる目標を明記していた。働く人からすれば、時給が1300円になれば喜ばしいことは間違いないだろうが、5年以内に1300円にするとなると、大幅な引き上げが不可欠となる。そして、その急激な賃金引き上げが中小企業に多大な負担をもたらすことになる。安定的な政権とは、バランスをとった政策ができる政権のことだが、安倍政権は最低賃金でもバランスを取った成長と分配の好循環を作り出そうとしている。
(terracePRESS編集部)