米国の核の傘の再認識が必要
安倍元首相の核共有をめぐる発言を契機に、日本の安全保障を確保する上での核兵器のあり方について議論が出ている。例えば、非核三原則の「持ち込ませず」の部分に関して議論を進めるべきとの意見もあるが、岸田首相は非核三原則の堅持を表明している。非核三原則を議論してはいけないという道理はないが、まずは国民が日本の安全保障は米国の核の傘の下で保たれているという現実を認識するところからスタートすべきだ。
安倍元首相は「NATOは核シェアリングという手法で、核の脅威に対して抑止力を持っている。もしウクライナが(NATOに)入ることができていれば、このような形にはおそらくなっていなかっただろう」「私たちがなぜ、非核三原則を基本的方針にしたかという歴史の重さを十分にかみしめながら、この現実の中で議論するのは当然」などと議論の必要性があることを提起した。
その後、自民党の高市政調会長が記者会見で、核共有(ニュークリア・シェアリング)について「日本の領域内に核兵器を配備することは考えていない」とした上で、非核三原則の「持ち込ませず」の部分に関しては「議論を封じ込めることはあってはならない」と指摘している。
これに対し、岸田首相は、非核三原則を堅持しても「日本の防衛力と日米同盟の抑止力で国民の命は守れると信じている」との考えを示し、非核三原則の堅持を確認している。
今回の議論で注目された「核共有」は核兵器をめぐるNATOの運用手法だ。核保有国が核兵器を同盟国と共有するという考え方で、例えばNATO加盟国のドイツは国内の基地に米国の核兵器を配備しており、有事の際には自国の戦闘機などに搭載し、爆撃できる態勢をとっている。米国はドイツを含め計5カ国に約100発の非戦略核爆弾を貯蔵しているとされている。
NATO加盟国の中で核兵器保有国は米、英、仏の3カ国だが、英仏は核兵器を提供していないから、核共有のための兵器提供は米国だけとなっている。
そもそもNATOは1つの加盟国に対して行われた武力攻撃を全加盟国に対する攻撃とみなすという集団安全保障の条約だ。加盟国は現在30カ国だから、米、英、仏を除いた27カ国は核兵器が自国内に配備されているか否かにかかわらず、米国の核によって安全保障を確保していることになる。
その点については、多くのNATO加盟国と日本も同じだ。米国の核の傘によって安全を確保しているわけだ。
もちろん、日米安全保障条約はNATOのような相互的な安全保障条約ではなく、米国に対して対日防衛義務を定めているだけだ。
日本に対しては、憲法の範囲内で防衛能力の整備に努めることや、米国の防衛能力向上について応分の協力をすること、米軍の駐留などを認めることを定めているだけだ。
いずれにしても、日本が米国の核の傘によって安全が保たれているということを忘れてはならない。非核三原則の議論をもし進めるとしてもそこがスタートであり、国民がその認識を欠いたままでは合理的な議論すらできないだろう。
(terracePRESS編集部)