肩代わりでは解決できない元徴用工訴訟
旧朝鮮半島出身労働者、いわゆる元徴用工訴訟をめぐり、韓国が解決案を模索している。解決案の中には日本企業の代わりに韓国政府などが賠償を〝肩代わり〟する案などが伝えられているが、この問題は日韓請求権協定により解決済みとなっており、韓国政府が日本企業の代わりに肩代わりするのは、日本政府は受け入れるべきではない。
訴訟を巡っては韓国最高裁が日本企業に賠償責任があることを認めており、日本企業の資産売却、現金化が目前に迫っており、早ければ今夏にも売却命令が最高裁で確定するとみられている。
一方、韓国の尹政権は5月の発足後、日韓関係の改善に意欲を示しており、同訴訟での「現金化の回避」を目指しており、韓国政府は今月4日、原告関係者や有識者を交え解決策を話し合う官民協議体を設立している。
こうした中で浮上しているのが基金の設立で、浮上したのが日韓の企業や国民による募金を基に、日本政府や敗訴した日本企業が参加しない形で基金を設立、賠償金に充てるという方式だ。
またそれに関連して、韓国政府が賠償金を肩代わりし、将来的に日本側に支払いを求める案も取り沙汰されている。
しかし、いわゆる元徴用工の損害賠償請求訴訟は、日韓請求権協定で取り決めた両国間の請求権に関する規定を完全に否定するもので違法なものだ。同協定では、両国の請求権に関する問題が「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と規定しているが、元徴用工訴訟は、この規定に反して日本企業に賠償を請求している。
だから少なくとも、いったん韓国政府や基金によって「代位弁済」し、後から日本側に請求するということを前提にする限り、日韓請求権協定に反することは変わらない。
日韓請求権協定では、日本から韓国に対して無償3億ドル,有償2億ドルの経済協力を行っている。この経済協力によって両国の請求権に関する問題は「完全かつ最終的に解決」していることになる。
元徴用工に対しては、日本からの経済協力という資金を受け取った韓国政府が本来支払うものであり、これを行わなかったために元徴用工が日本企業を対象に損害賠償請求訴訟を起こしたわけだ。
日韓関係を改善するためのボールは現在、韓国側にあり、日本政府はその韓国側の行動を見守っている形だ。6月に行われた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議には、岸田首相も尹大統領も参加したが、そこで日韓首脳会談が行われなかったのは、岸田政権が、韓国側が現在も、具体的な行動を取っていないからだと言われている。
しかし、韓国側が具体的な解決策を提示したとしても、それが「代位弁済」「肩代わり」となる限りは、日本政府は受け入れるべきではない。それが日韓請求権協定に基づいた合理的な解決を目指すという日本政府のとるべき姿勢だ。
(terracePRESS編集部)