もっとも簡単で最も愚劣な行い
世の中で最も簡単であり、最も愚劣な行いは、前提条件を一切考慮せずに相手を批判することだろう。理想論をかざせば何事も批判の対象になるのだ。そしてその批判はあたかも事実のごとく世の中に広がってしまう。
感染症対策を専門とする神戸大の岩田健太郎教授が18日夜、動画投稿サイト「YouTube」で、クルーズ客船「ダイヤモンド・プリンセス号」の新型コロナウイルスの2次感染対策が不十分などと政府の対応を批判したのもその一つだ。岩田氏の訴えは、船内では安全な区域と危険な区分けができていないなどとの主張だ。
岩田教授は20日になって突然その動画を削除したが、動画の再生回数はすでに100万回を超え、SNSなどでもその主張をもとにした政府批判が相次いだし、海外メディアもその主張を引用して日本政府の対応を厳しく批判している。
その一方で、日本環境感染学会のチームとして船内で支援活動に当たった桜井滋岩手医大教授(感染制御)は「騒ぎになっているが、事実に基づかない部分がある。患者のエリアは分けられていた」と反論したという。
もし、岩田氏の指摘が事実に基づかない部分があるとしたら、それだけで国益を損なう結果となるのだが、それぞれ専門家の立場として見解の相違といえる可能性もあるのかもしれない。少なくとも岩田氏の主張が事実に基づいたものか、反していたのかという点は明らかにされるべきものだろう。
しかし、岩田氏の主張の最も重大な欠陥は、コロナウイルスによる新型肺炎の患者が出たのは、3000人もの人々が乗船している大型クルーズ客船だという前提が考慮されていない点だ。
それは英国船籍であり、所有者は米国の企業。船の大きさを言えば全長290メートルで、水面上の高さは54メートルにも及んでいる。デッキ数は18、つまり18階建てのビルのようなものだ。
しかし、船という性格上、客室デッキの廊下などは普通のビルよりも狭くなっており、迷路のようになっているところもある。また、乗船している人々も多国籍だ。
そうした空間で患者が発生し、3000人のうちどれだけの人々がり患していたかもわからないところから、日本政府は突然対応をスタートさせなければならなかったのだ。
手探りで方針を決め、手探りで対応策を実施していかなければならなかったのだ。そしてさらに言えば、可能な限り国内にウイルスを持ち込ませないという重要な責務もあったのだ。そんな経験をした政府はこれまでどこにもなかっただろう。
建設的な批判はもちろん歓迎すべきことだが、そうした前提を一切無視し、一方的な批判をすれば、日本自体が貶められる結果となり、それは日本人一人一人に跳ね返ってくる。
(terracePRESS編集部)