政治家の責任
安倍晋三首相が先ごろ開かれた自衛隊観閲式の訓示で、「すべての自衛隊員が強い誇りを持って任務を全うできる環境を整えるのは、今を生きる政治家の責任だ。私はその責任を果たしていく」と述べた。
新聞などではこの訓示について、安倍首相が改憲に改めて意欲を示したと伝えられたが、明示的に改憲と述べなくても首相は「(発足から)60年を超える歩みの中で、自衛隊の存在はかつて厳しい目で見られたときもあったが、歯を食いしばり、ただひたすらに職務を全うしてきた。諸君自身の手で信頼を勝ち得たのだ。次は政治が役割を果たさなければならない」とも強調しており、素直に受け止めれば、改憲への強い意志を示したことは間違いないだろう。
災害派遣での自衛隊の活躍をみれば、ほとんどの人が自衛隊の組織を認め、信頼しているに違いない。しかし、その裏では、本来の〝自衛〟のための任務も日夜行っていることも忘れてはならない。
防衛省は先ごろ、領空侵犯の恐れのある外国軍機に対する緊急発進(スクランブル)の回数が、本年度上半期(4~9月)で、昨年度と同じ561回だったと発表している。
中国機に対する緊急発進回数は345回で、前年度同時期と比べて58回増加。ロシア機に対する緊急発進回数は211回で、前年度同時期と比べて56回減少したという。
近年のスクランブルをみると、2008年度の237回から、若干の増減はあるものの増え続けており、17年度には1168回にも達している。
スクランブルは外国軍機と直接対峙するもので、国民が知りようもない空間でまさに自衛のための活動が行われているのだ。
もちろん、航空自衛隊だけではない。海上自衛隊も日常的に海外の艦艇の動向を追っている。最近の活動を見ても10月9日午後10時ごろ、海上自衛隊第3ミサイル艇隊所属「おおたか」(佐世保)と第4航空群所属「P-1」(厚木)が、上対馬の北東約55キロメートルの海域を南西進するロシア軍艦3隻を確認しているし、翌10日午前0時ごろには、第45掃海隊所属「あおしま」(函館)が、宗谷海峡を東航したロシア軍艦2隻を確認している。
災害派遣で活動する自衛隊には頭が下がる思いだが、実は国民の分からないところで自衛隊は毎日、国民の生命・財産を守るための自衛活動を行っているのだ。
安倍首相の憲法に自衛隊の存在を明記するという思いは、こうした活動に応えようというものだ。憲法学者の中には、自衛隊違憲論を唱える人も多いが、こうした活動実態を無視した机上の空論だ。しかし、そうした疑義がもたれないように憲法を改正することは、首相の指摘のように「今を生きる政治家の責任」だ。