リスクある患者の治療優先は当然
重症化リスクの低い新型コロナウイルス感染者を自宅療養とする政府の新方針は、中等症患者も原則的に入院対象とする方針を明確化することで、混乱は収束した。政府が当初、詳しい入院基準を明らかにしなかったのが混乱の一因で、野党などから「患者を見捨てる」といった批判が出ていた。しかし病床が限られている限り、重症者や重症化のリスクがある患者を優先的に治療する必要があることも事実だ。
新型コロナの治療で入院対象となる感染者はこれまでも、重症または中等症の患者のほか、重症化リスクの高い高齢者や呼吸器疾患がある人などとなっていた。しかし、実際は医師の判断で軽症者が入院するケースもあった。このため政府は2日、入院患者を重症者や重症化リスクの高い人などに限り、その他の感染者は自宅療養を基本とするよう明確化した。
しかし詳細な入院基準を示さなかったために、与野党から疑念を呼び、5日になって政府が「入院は重症患者、中等症患者で酸素投与が必要な者、投与が必要でなくても重症化リスクがある者に重点化」すると記載した資料を自治体に送付、田村厚労相が国会で「中等症は基本的に入院。軽症でも悪化の可能性が高いと医師が判断すれば入院」と説明して、混乱が収まった。
今回の感染拡大は7月初旬から始まり、同月12日に東京都に緊急事態宣言が発令された。9日時点の「感染者急増時の緊急的な患者対応方針」では、「緊急的な患者対応方針としての確保予定病床数」は全国で38,013床、そのうち重症者向けは3,826床で、東京都をみると「緊急的な患者対応方針としての確保予定病床数」が6,044床、重症者向けが 373床だった。ただし、この重症者向けは東京都基準によるもので、国基準では1,207床だった。
この「感染者急増時の緊急的な患者対応方針」は約1カ月後の8月6日時点になると、「緊急的な患者対応方針としての確保予定病床数」は全国で38,748床、うち重症者向けは4,001床で、東京都の「緊急的な患者対応方針としての確保予定病床数」は6,406床、重症者向けは392床だった。こちらも同様な理由で国基準だと1,207床だった。
このように全国の「緊急的な患者対応方針としての確保予定病床数」をみると、まさに感染が急拡大したこの1カ月間で735床、重症者向けは175床しか増えていない。東京都でも重症者向けは東京都基準で19床、国基準だと増えていない。
日本の場合、なかなか民間病院の協力を得られないのが実情で、病床を増やすには特別な臨時の医療施設を設置するしかないだろう。ただ、それをやったとしても民間病院の協力を得られない限り医療関係者の確保ができないだろう。
救急医療の現場では「トリアージ」という重要で最初に扱うべき者の選別と決定をすることが常識となっている。新型コロナ治療をこれと同列に考えることはできないかもしれないが、リスクの高い人から優先的に治療するのは当然だ。
もちろん、感染防止が最も重要であることはいうまでもないが、患者数に対して病床が足りなければどこかで入院と自宅療養の線引きをし、同時に現場で柔軟に対応するということが不可欠となる。
(terracePRESS編集部)