国民にも求められる普遍的価値守る覚悟
国際社会のパワーバランスが急激に変化し、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさと不確実性を増している。岸田政権は、そうした環境の変化の中で外交を進めるという重い課題を背負っている。日本の国益を守るためには国民がそうした情勢認識を共有することが求められる。
林外相が通常国会で行った外交演説は、そうした国際情勢の急激な変化を背景として、危機意識が現われたものとなった。
外相は演説で「これまで国際社会の平和と繁栄を支えてきた、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値や国際秩序が厳しい挑戦にさらされている。また、革新的技術の出現などにより、安全保障と経済を横断する領域で様々な課題が顕在化するなど、安全保障の裾野が急速に拡大している」と述べている。
経済大国となった中国の軍事的な拡張で、アジアの緊張が高まっていたり、中国国内において人権侵害が行われていたりするなど、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値観に挑戦する動きが出ていることなどを背景とした発言だ。
外相はさらに「こうした認識に立ち、先人たちの努力により世界から得た日本への信頼を基礎に、普遍的価値を守り抜く覚悟、日本の平和と安定を守り抜く覚悟、そして人類に貢献し、国際社会を主導する覚悟、これら3つの『覚悟』を持って、対応力の高い、『低重心の姿勢』で、日本外交の新しいフロンティアを切り拓いていく」と強調している。
すでに、普遍的価値観を守るために各国は行動している。例えば「自由で開かれたインド太平洋」の実現は、インド太平洋地域で、法の支配に基づく自由で開かれた秩序を実現するためのものだ。日本も米国を始め、オーストラリア、インド、ASEAN、英国、フランスなど欧州などの同盟国やパートナー国と連携したり、日米豪印(クアッド)の枠組みを活用したりしながら取り組みを進めている。
ここで重要なことは、林外相がいう「普遍的価値を守り抜く覚悟」を国民が認識することだろう。その認識がなければ、やがて異なる価値観によって侵食される可能性が否定できない。それが国際社会というものだろう。
外相は演説で中国に関し「尖閣諸島周辺海域を含む東シナ海における一方的な現状変更の試みは、断じて認められない。冷静に、かつ、毅然と対応する。また、南シナ海をめぐる問題についても、緊張を高めるいかなる行為にも強く反対し、力や威圧によらない、国際法に基づく紛争の平和的解決の重要性を強調していく」などと述べている。
さらに「香港情勢や新疆ウイグル自治区の人権状況についても深刻に懸念する」とも指摘している。
自民党の茂木幹事長は民放テレビの番組などで、中国の新疆ウイグル自治区などでの人権問題を非難する国会決議について「おそらくこの国会で私は成立できると思う。これは全会一致でやりたい。まず各党の関係者に党内手続きを取っていただくことが重要だ」と述べている。
こうした国会の決議は、国民の「普遍的価値を守り抜く覚悟」を示す1つの手法となる。
(terracePRESS編集部)