対中結束示した日印両国
岸田首相とインドのモディ首相の首脳会談が先ごろ、インドのニューデリーで開かれた。メディアなどは、両首脳がウクライナ情勢に懸念を示したことにスポットをあて報じているが、実際は対中国への結束を示した会談だった。インド太平洋地域の安全、繁栄に向けて両国の取り組みを強化する方針だ。
首脳会談の共同声明ではもちろん、ウクライナ情勢について言及。「現下のウクライナにおける紛争及び人道的危機について深刻な懸念を表明し、そのより広範な、特にインド太平洋地域への影響を分析した」と表明し、戦闘行為の即時停止を求めるとともに、ウクライナでの人道的危機に対応するための措置をとることを確認している。
現在のウクライナ情勢の中で、ロシアとの関係が深いインドとの首脳会談だから、ロシアに対する名指し批判を避けたことは仕方ないにせよ、ウクライナ情勢に懸念を示し、ロシアに対して戦闘行為の即時停止を要求したことは評価されるべきだろう。
しかし、共同声明でのウクライナ情勢に関してはこの程度にとどまっているのが現実で、実際は、インド太平洋地域での平和や安全の確保という中国への対応を強く意識したものとなっている。
日本とインド両国は人的交流からスワップ協定、インフラ整備など経済分野や安全保障に関する「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」をすでに結んでおり、安全保障に関しては「自由で開かれたインド太平洋に向けて協働していく」ことを盛り込んでいる。
今回の会談では、これを再確認した上で、共同宣言で「日本とインドが、インド太平洋地域を主導する二つの主要国として、海洋の安全と安全保障、航行及び上空飛行の自由、阻害されない適法な通商、並びに国際法に従った、法的及び外交的プロセスを完全に尊重した紛争の平和的解決に共通の利益を有することを強調した」と明記している。
ところで、岸田首相は今回のインド訪問に合わせて、インドの主要新聞である「インディアン・エクスプレス紙」に寄稿している。
ここで首相は「ロシアによるウクライナ侵略は明確な国際法違反であるとともに、力による一方的な現状変更の試みであり、断じて認めることはできない。国際秩序の中核的な原則を守り抜くことは、急速に厳しさを増すインド太平洋の外交・安全保障の観点からも不可欠」「このような力による一方的な現状変更をインド太平洋地域においても許してはならない。こうした状況だからこそ『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けた取組を一層推進していくことが重要だ」などと述べている。
ロシアのウクライナ侵略は歴史に残るような暴挙であることは間違いない。しかし、アジア地域でも将来、同様のことが起こる可能性は否定できない。隙をみせれば、その隙がロシアのような侵略や不法行為を呼び込むことになることは、国際政治の常識だ。
だからこそ、アジアの平和と安定のためには両国の緊密な取り組みが不可欠となる。
メディアがウクライナ情勢に紐付けた報道をするのは致し方ない部分もあるが、今回の日印首脳会談は、インド太平洋の安全と安定に向けた重要な会談になったことは間違いない。
(terracePRESS編集部)