許されない宝島広告のデマゴーグ
出版社の宝島社が朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞の5月11日付け朝刊に「ワクチンもない。クスリもない。タケヤリで戦えというのか。このままじゃ、政治に殺される。」とのコピーをつけた見開きの全面広告を掲載した。新型コロナウイルス感染症対策について、政府を真正面から批判したとされるが、実際は事実誤認やねじ曲げがあり、意見広告の枠を完全に逸脱しており、国民を惑わす単なるデマゴーグでしかない。
広告はコピーのほか、「私たちは騙されている。この一年は、いったい何だったのか。いつまで自粛をすればいいのか。我慢大会は、もう終わりにして欲しい。ごちゃごちゃ言い訳するな。無理を強いるだけで、なにひとつ変わらないではないか。今こそ、怒りの声をあげるべきだ」との文章も掲載している。
これが宝島社の主張なのだが、どこかで聞いたようなロジックだ。どこで聞いたかといえば、夕方のニュースなどで見る、路上飲みをしている若者がインタビューを受けた際の主張だ。
確かに1年間かけても新型コロナ感染症は、終息はもちろん、収束もしなかった。しかし、それは日本だけではない。海外も同様だ。台湾やシンガポールなどコロナ対策の優等生と言われた国や地域でさえも、変異種の拡大が懸念されている。
そもそも人口規模が異なるそれらの国々や地域と日本を比較し、「あの国はやっているのになぜ日本はダメなのか」という野党の主張には無理があるが、その優等生の国々でさえも変異株が拡大しているのだ。
広告は「この一年は、いったい何だったのか」と言うが、この一年間、政府だけでなく、医療関係者、飲食店、さまざまな事業者が懸命になって戦ってきた。
「クスリもない」と言うように、特効薬は確かに世界的には存在していないが、コロナ患者の治療は知見が増えたことでこの1年間で相当改善されている。そうしたさまざまな努力を宝島社は「タケヤリ」と馬鹿にしているのだ。
「ワクチンもない」と言っても、ワクチンは既に医療関係者や高齢者に対して接種されていることは言うまでもない。政府や自治体は現在、1日100万回の接種を目指し、体制整備を進めているのだ。
広告は、真ん中に赤いワクチンを配し、そのバックにはタケヤリを持った少女がいる。宝島社は否定しているようだが、日の丸をイメージさせるデザインだ。
マスクをし、手洗いやうがいをし、3密を避ける、感染リスクが高まる5つの場面を避ける。それを「タケヤリ」と揶揄するのなら、タケヤリがB29への対抗手段にならなかったように、そうした対策が意味のないことを宝島社は証明すべきだろう。
路上飲みの若者は、思い込みや誤解に基づいた知識だろうが、個人の感想としてテレビのインタビューなどで勝手に答えればいい。
しかし、今回の広告はその若者の主張と同じレベルであり、新聞広告として掲載するとなれば、もはやデマゴーグと言わざるを得ない。もしその掲載の意図が国民を混乱させるというものであれば、決して許されることではない。
(terracePRESS編集部)