それでも変わらないIRの重要性
国家公安委員長だった小此木八郎衆議院議員が8月22日投開票の横浜市長選への立候補を正式に表明した。小此木氏は会見で市長になることができれば、最初の仕事はIR構想をとりやめることだ」と言明した。統合型リゾート(IR)事業について小此木氏がどのようなスタンスをとるかは自由だが、国際競争が激しくなるポストコロナ社会で、日本にとってのIRの重要性は変わらない。
自民党神奈川県連会長も務める小此木氏自ら、IR誘致の取りやめを明言したことは、これまで反対を続けていた立憲民主党などへの追い風になりかねない。小此木氏は、横浜市での誘致事業を取りやめる理由を「市民の反対」などとしているが、横浜での問題を全国に波及させてはならない。
横浜市民の反対する理由は、IRにカジノが含まれていることがあるのだろうが、IRは「統合型リゾート」(Integrated Resort)のことで、国内外の観光客を呼び込むために、ホテル、レストランやショッピングモール、劇場や水族館などのエンターテイメント施設、カジノ、国際会議場や国際展示場などの各施設を一体的に整備・運営しようというものだ。カジノはその中のほんの一部でしかない。
そもそも、IRの考え方は、海外ではいち早く取り入れられ、日本は立ち遅れている。ラスベガスはまさにカジノで知られているが、コンベンションセンターも約18万平方メートルと、日本の東京ビッグサイトや幕張メッセよりはるかに大規模だ。
シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズにはホテルの屋上に展望プールがあり日本人でも訪れた人が多いだろう。ここは、東京ドーム約4個分の敷地に2,561室の巨大ホテルをはじめ、約12万平方メートルの会議場・展示場のほか、ショッピング施設、劇場、博物館、スケート場、ナイトクラブ、カジノなどが併設されている。
海外のIR施設が発展する一方で、日本の国際会議場や展示場などの国際競争力は急速に衰退している。アジア・大洋州主要5ヵ国での国際会議の開催状況をみると、1991年に51%シェアを占めていた日本は、2015年には26%にまで低下した。2015年の都市別の開催件数でも、シンガポールが156回で1位。これに対し東京は80回、京都が45回、福岡は30回で、ソウル(117回)、香港(112回)、バンコク(103回)、北京(95回)などと水をあけられているのが実態だ。
新型コロナで海外からの誘客がなくなったことは事実だが、これは他の国々も同様だ。コロナは確実に克服されるだろうし、ポストコロナの社会になれば、各国とも再び誘客に力を入れることは間違いない。日本の国際競争力の低下を巻き返し、海外からの旅行客やビジネス客を呼び込んで新たな観光ビジネスモデルを確立しようというのがIR事業の本質だ。そして、こうした取り組みは日本の成長、発展にとって不可欠なパーツなのだ。
小此木氏が選挙戦で何を訴え、選挙の結果がどうなるかはうかがい知ることはできないが、小此木氏のIRへの対応、考え方を、日本のIR事業の重しとしてはならない。IR事業の重要性は何も変わらない。
(terracePRESS編集部)