日本にも重要な〝力による現状変更〟を認めない原則
ロシアによるウクライナ侵略を巡るロシア、ウクライナ両国の停戦交渉が断続的に続いている。停戦交渉の行方は予断を許さないが、何らかの〝合意〟ができれば、残念ながらそれは「力による現状変更」が行われることにほかならない。それが国際社会の現実でもあるが、同じような事態をアジアでも起こさせない取り組みが求められる。
伝えられるところによれば、停戦交渉ではウクライナの安全保障の枠組みを構築し、その後、ウクライナが〝中立国〟になるという案がテーブルに乗っているという。ウクライナの安全を保証する国の候補としてはポーランド、イスラエル、トルコ、カナダなどのほか、中国も取り沙汰されている。
ここでいう〝中立国〟の形態がどのようなものになるかは明らかではないが、ロシアはウクライナがNATO加盟を求めることが、自国にとっての「脅威」と主張していた。
ロシアのプーチン大統領は、軍事侵攻の目的をウクライナの「非軍事化」と「非ナチ化」だと説明しているが、実際は、ウクライナを中立化させ、西欧諸国とロシアの緩衝地帯にしようという狙いという見方もある。
そのような、侵略したロシアの狙いは別として、ロシアがウクライナに軍事侵攻し、その結果、停戦交渉でウクライナの中立化が協議されているのが現実だ。
いずれにしても、仮にウクライナが中立化することになれば、それはロシアの軍事力がもたらす、力による現状変更が実現してしまうということだ。
力によって多くのウクライナ国民の命と生活を犠牲にし、建物や街を破壊したことに加え、それまでのウクライナの状況を武力で変えさせることになる。確かに、政治体制こそ守ることができたとしても、現状変更には変わりはない。
さまざまな犠牲が出たにせよ、本来は2月 24日のロシア軍の侵略前に戻すよう、ロシア軍の無条件かつ速やかな完全な撤退のみが求められるべきなのだが、現実には「力による現状変更」が認められてしまう可能性が強い。それは、多くの犠牲とともにウクライナ国民にとっては容認できない悲劇だ。
そもそもロシアは、米英ロがウクライナの安全を保証するとした1994年のブダペスト覚書を一方的に破ったのだ。
国際的な合意を一方的に破り、一方的に軍事侵攻し、その結果、現状変更を容認させてしまう。これが国際社会の現実だ。
アジアでも「力による現状変更」の試みが行われる可能性を否定できない。日本のリーダーシップなどで「自由で開かれたインド太平洋」戦略は、そうした行為を抑制するための西側諸国の取り組みとなっている。
こうした取り組みを停滞させることは「力による現状変更」の誘い水になる可能性がある。アジアにおいて「力による現状変更は認めない」ために、日本はさらに取り組みを強化する必要がある。
(terracePRESS編集部)