カジノ法の本質は? メディアは伝えない、国民は知らない
前回、統合型リゾート(IR)整備法案をめぐる朝日新聞の世論調査について、設問のおかしさを指摘したが、そもそもメディアはこの法律について〝カジノ法〟などと称し、正しい内容を伝えていない。その不正確な情報によって、国民が判断するとすれば、不幸なこと、この上ない。
メディアが「カジノ法」「カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法」などと表記している法律は、正式には「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」と呼び、略称を「IR整備法」としている。
略称の中に突然「IR」と出てくるが、では、IRとは何だろう?
IRとは「統合型リゾート」(Integrated Resort)のことで、
①観光施設に寄与する諸施設と「カジノ施設」が一体となっている施設群
②カジノの収益により、大規模な投資を伴う施設の採算性を担保
③民間事業者の投資による集客及び収益を通じた観光地域振興や新たな財政への貢献
―などと定義されている。
簡単に言えば、国内外の観光客を呼び込むために、ホテル、レストランやショッピングモール、劇場や水族館などのエンターテイメント施設、カジノ、国際会議場や国際展示場などの各施設を一体的に整備・運営しようというものだ。
こうしたIRの考え方は、海外ではいち早く取り入れられ、カジノで知られるラスベガスをはじめ、最近ではシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズや、リゾート・ワールド・セントーサなどが知られている。ホテルの屋上に展望プールがあるマリーナ・ベイ・サンズのホテルは、日本人でも訪れた人が多いだろう。
ちなみに、マリーナ・ベイ・サンズは、開発費約4,870億円。敷地面積は約19万平方メートルで東京ドーム約4個分。そのうち2,561室の巨大ホテルをはじめ、約12万平方メートルの会議場・展示場のほか、ショッピング施設、劇場、博物館、スケート場、ナイトクラブなどが併設されている。
カジノは1.5万平方メートルで、テーブル600台、スロット2,500台をそろえ、24時間営業している。
シンガポールでは2005年にリー・シェンロン首相がカジノを含むIRを誘致することを決断、特徴的なホテルやエンターテイメントなど様々な施設を整備した。その結果、2009年と14年の5年間を比べると、外国人旅行者は56%増の1,510万人、外国人旅行消費額は86%増の1.86兆円、国際会議開催件数は23%増の850件とさまざまな面で効果を発揮している。
最近は、日本への外国人旅行者は増えているものの、IRでの国際会議や展示場などでの日本の国際競争力は急速に衰退しているのが実態だ。アジア・大洋州での国際会議の開催状況をみると、1991年に51%シェアを占めていた日本は、2015年には26%にまで低下。2015年の都市別の開催件数でも、シンガポールが156回で1位。これに対し東京は80回、京都が45回、福岡は30回で、ソウル(117回)、香港(112回)、バンコク(103回)、北京(95回)などと水をあけられている。
また展示場でも日本の立ち遅れが目立ち、広さ8.0万平方メートルで日本最大の東京ビックサイトは世界73位、アジアでも19位でしかない。
こうした数々の国際競争力の低下を巻き返し、海外からの旅行客やビジネス客を呼び込もう、つまり新たな観光ビジネスモデルを確立しようというのがIR整備法の本質だ。確かに、カジノも重要なパーツであることは間違いないが、それがIR整備法の中心ではない。
そのカジノにしても、世界201カ国・地域の中で、127カ国・地域で合法化されている。
一部メディアのように、木を見て森を見ない姿勢では、物事の本質を見誤ってしまう。新たな観光ビジネスモデルをつくることがIR整備法の目的であることを忘れてはいけない。