特措法、ロックダウンの誤解
「ロックダウン(都市封鎖)」という言葉が独り歩きしている。小池東京都知事が3月25日の記者会見で「このままではロックダウンを招く」などという言葉を使って俄然注目を浴びたわけだが、世間には新型インフルエンザ特措法の緊急事態宣言とロックダウンを混同する向きもある。
実は、ロックダウンに言及したのは小池知事が初めてではない。政府の専門家会議が3月19日に出した見解の「1.はじめに」では「あるときに突然爆発的に患者が急増(オーバーシュート(爆発的患者急増))すると、医療提供体制に過剰な負荷がかかり、それまで行われていた適切な医療が提供できなくなることが懸念される。こうした事態が発生すると、既にいくつもの先進国・地域に見られているように、一定期間の不要不急の外出自粛や移動の制限(いわゆるロックダウンに類する措置)に追い込まれることになる」と指摘。
その後、欧州で起こったような大規模流行が生じ、またロックダウンに類する措置などが講じられなかった場合に起こる事態の想定を示し、「3密」を避ける努力ができなかった場合「ある日、オーバーシュート(爆発的患者急増)が起こりかねないと考える」としている。
そのうえで専門家会議は「我々としては、『3つの条件が同時に重なる場』を避けるための取組を、地域特性なども踏まえながら、これまで以上に、より国民の皆様に徹底していただくことにより、多くの犠牲の上に成り立つロックダウンのような事後的な劇薬ではない『日本型の感染症対策』を模索していく必要があると考えている」と指摘していた。専門家会議はロックダウンにならないように国民に協力を求めたわけだ。
しかし、残念ながらロックダウンの定義がここでは示されていなかったため、小池知事の「ロックダウン」が独り歩きしたのかもしれない。
小池知事の発言以降、世間では特措法の緊急事態宣言がロックダウンと同義語にとらえる向きもあるが、これは全く違う。
緊急事態宣言では、首相が対象となる地域も定め、その地域の都道府県知事は外出自粛要請に加え、商業施設の使用制限や病院開設のための土地収用などが可能となる。土地収用などは強制性があるが、外出自粛はあくまでも要請だ。
必要と認めれば多数が利用する施設などの使用停止も指示でき、施行令では対象施設として学校や保育所のほか、デパートやホテル、キャバレー、理髪店や学習塾なども挙げているが、こちらも従わない場合の罰則はない。
確かに、外出自粛や施設の使用停止などが行われれば、暮らしや事業者の経営に大きな影響がでることは間違いないが、諸外国のような強制性があるかというと実態は異なるのだ。
国民の間では、「緊急事態宣言を出すべき」との声もあるが、緊急事態宣言が出るか否かにかかわらず、新型コロナウイルスの感染拡大の防止をするのは、政府ではなく国民一人一人の取り組みであることを改めて認識する必要がある。
(terracePRESS編集部)