国土分散、地方移転に着手する安倍政権
新型コロナウイルス感染症は、日本人に国土の在り方を考えさせる契機になった。安倍政権は今後、国土の分散や地方移転の促進について本格的な議論をスタートさせる。
日本は現在「少子高齢化」という〝国難〟とも言うべき現象に直面している。2019年の出生数は86万5234人で、前年より5万3166人減。一方、死亡数は138万1098人で戦後最多となり、死亡数から出生数を引いた自然減の減少幅は過去最大となった。ただ、これを都道府県別に細かく見ると、地域によって状況が異なってくる。
実は、19年の都道府県の中で沖縄、埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、滋賀の7都県は人口が増加している。各都県の増減要因をみると、沖縄だけが自然増、社会増の両方が増加要因だったが、残りの6都県は自然減だったものの社会増により地域としての人口が増えた状況となっている。
沖縄は別としても、その他は大阪府、京都府との通勤利便が向上した滋賀を含めいずれの地域も、都市圏への人口集中、人口移動が進んでいる結果を示したものだ。
ところで、内閣府が5月25日~6月5日に全国の約1万人を対象にインターネットで新型コロナの広がりに伴う生活意識や行動の変化を探った調査をしたところ、テレワークを実施した人は全国で34.6%に達し、テレワーク実施者の64.2%が「仕事より生活重視に変化した」、24.5%が「地方移住への関心が高まった」とそれぞれ回答している。
安倍首相も先ごろの記者会見で「今般、テレワークが一気に普及した。様々な打合せも、今や対面ではなくウェブ会議が基本となっている。物理的な距離はもはや制約にならず、どこにオフィスがあっても、どこに住んでいてもいい。こうした新たな潮流を決して逆戻りさせることなく、加速していく必要がある」と指摘している。
そのうえで「3つの密を避けることが強く求められる中において、地方における暮らしの豊かさに改めて注目が集まっている。足元で、20代の若者の地方への転職希望者が大幅に増加しているという調査もある。集中から分散へ、日本列島の姿、国土の在り方を、今回の感染症は、根本から変えていく、その大きなきっかけであると考えている」と述べ、今後、国土の在り方などについて検討を進める考えを示した。
安倍首相の指摘通り、確かにテレワークは仕事を進める上で、物理的な距離がそれほど制約にならないことを示した。その意味では、これからの社会は地方での生活が仕事上マイナスにならないということだ。ましてや日本の地方は、高速交通網を含め社会資本の蓄積が進んでおり、バランスのある国土形成を進めることに支障はない。
安倍首相は未来投資会議を拡大し、新たな社会像や国家像までをも構想していく考えを示しているが、次世代が誇りと期待を持てる地域社会を作ることが期待される。
(terracePRESS編集部)