経済財政白書「スタグフレーションと呼ぶ状況ではない」
内閣府は先ごろ、令和4年度の年次経済財政報告(経済財政白書)を公表した。現在、ロシアのウクライナ侵略などを契機に国内物価が上昇しており、物価の低迷と景気悪化が並行する「スタグフレーション」の懸念も出ている中で、白書はスタグフレーションとの見方を否定。その一方、賃金引上げや投資の拡大などの必要性も指摘した。
白書は、現在の状況について「我が国経済は企業収益が高水準にあり、個人消費や設備投資は上向くなど持ち直しの動きが続いている。また、現時点で物価上昇は主に原油価格等の上昇に起因する輸入インフレにとどまっており、消費者物価上昇率や期待物価上昇率も欧米と比較して著しく高い状況ではないことから、我が国経済はスタグフレーションと呼ばれる状況にはない」との判断を示している。
事実、企業収益、個人消費は明らかな悪化はしていない中で、物価の上昇も他の先進国に比べれば抑制されており、スタグフレーションと呼ぶ状況にはなっていない。
一方、スタグフレーションに陥らないように警戒することも必要で、この点について白書は「政府が実施する国民生活の安定に向けた物価対策に加え、賃金を着実に引き上げていくことが重要。さらに、2%程度の持続的・安定的な物価上昇率とそれに見合った賃金上昇率という新たな価格体系に円滑に移行していくことが必要である。こうしたマクロ経済面での課題に対処していくためには、賃金引上げの社会的雰囲気を醸成していくとともに、経済や物価動向等に関するデータやエビデンスを踏まえ、適正な賃上げの在り方を官民で共有していくことが必要だ」と強調している。
その一方で白書は「むしろ、マクロ経済環境からみた日本の物価上昇圧力は欧米と比べて弱く、デフレ脱却に向けて十分とはいえない状況にある。物価は上昇基調にあり、価格が上昇する品目も着実に増加しているが、デフレ脱却には物価が持続的・安定的に上昇し再びデフレ状況に後戻りする見込みがない状況となることが必要である」ことも指摘している。
物価は上昇しているものの、あくまでも輸入インフレで、それよりも〝デフレ状況に後戻り〟する恐れがあるとして、そのための政策を着実に進めることの必要性を訴えているわけだ。
「デフレ脱却」といえる環境を実現する道筋としては「時間当たり賃金が継続的・安定的に増加し、その増加が個人消費の増加につながることで、需給の引締まりを伴いつつ持続的・安定的な物価上昇に落ち着いていくという好循環を実現していくことが必要となる」と指摘している。
日本は、1997年以前は名目賃金上昇率が物価上昇率を上回っていたのに対して、それ以降は同程度もしくは下回っており、名目賃金の伸びが物価の伸びに対して十分とはなっていない。
白書はこの点について「まずは投資を喚起し、労働生産性をより高めていくとともに、労働生産性の上昇に見合った賃金上昇を実現していく必要がある」と指摘している。
(terracePRESS編集部)