問われるコロナの「リスクコミュニケーション」
新型コロナウイルス感染症をめぐり政府の広報のあり方が問われている。確かに、新型コロナを戦後の日本が初めて経験した〝非常事態〟とするならば、政府が通常行っている「政策広報」や「行政広報」では通用しないことも事実。広報の考え方を変え「リスクコミュニケーション」「クライシスコミュニケーション」と呼ばれる考え方で広報する必要がある。
西村経済再生担当相は15日の記者会見で「どういう形で広報すれば、国民に理解していただけるのか。周知を徹底していきたい」と述べた。政府としては、非常事態宣言の対象地域を中心に再三、外出自粛を呼び掛けているにもかかわらず、人と人の接触が減らず、新規感染者も明確な減少方向に至らない現状に危機感をにじませた。
一口に広報、PRと言っても様々な手法がある。広報、PRと言えば、企業などがブランディングやマーケティングのために、商品やサービスの認知を広めるためのものが頭に思い浮かぶ。この場合、商品やサービスの優位性を周知することに力点が置かれる。
これに対して「危機管理広報」と呼ばれるものもある。不祥事や事件を起こした企業が、信頼の低下を抑止するために行うためのもので、この場合は、謝罪や対策についてしっかり情報発信することが重要となる。
行政の場合は通常、政策広報や行政広報と呼ばれ、その行政が策定した政策などを住民や国民に周知するもので、企業が通常行う広報、PRに似ている。
さて、これらの広報、PRの相手、すなわち情報を発信する相手は一様ではない。企業の商品もそもそも、その企業のファンの消費者もいれば、関心を持たない消費者もいる。行政の場合も、その政策に関心を持つ住民もいれば、持たない住民もいる。そうした一様ではない人々に、自らが訴求したいことを発信するのが、企業や行政の広報、PRだ。それでも最近は、どのように発信する相手の〝共感〟を得るかが重要になっている。
以上のような広報、PRはあくまでも一般的なもので、行政が一つのリスクを利害関係者で共有するために必要なのは「リスクコミュニケーション」と呼ばれる手法だ。厚生労働省はリスクコミュニケーションについて「リスク分析の全過程において、リスク評価者、リスク管理者、消費者、事業者、研究者、その他の関係者の間で、情報および意見を相互に交換すること」と定義付けている。
別の言い方をすればリスクコミュニケーションは、関係者(ステークホルダー)間で情報を共有し、対話や意見交換を通じて意思の疎通をすることだ。それによって信頼関係を構築する。情報の共有がなければ、信頼関係は構築できない。
さて、新型コロナの場合、ステークホルダーは誰かと言えば「国民全員」だ。そのステークホルダーに対して「早く」「正確な」「信頼できる」情報を提供し、受け手側の理解や行動を「促進」することが重要となる。
そして、そのためには、国民がどのように行動変容を起こせばいいのかを分かりやすく提示しなければならない。また、情報発信する際には、自らが発信したい情報、国民が知りたい情報、その優先順位を考えながら発信することが重要だ。
(terracePRESS編集部)