コロナ収束後に期待できる個人消費
新型コロナウイルス感染症をめぐりメディアは毎日のように、経済的苦境に陥っている人々がいることを伝えている。もちろん、そうした困窮に直面している人々はいるし、政府が新たな困窮者対策を打ち出したのもそのためだ。しかし、足元をマクロでみれば、雇用・所得環境への影響は限定的となっている。
日本銀行が先ごろ発表した資金循環統計(速報)によると、昨年12月末時点で個人(家計部門)の「現金・預金」は4.8%増の1056兆円となった。このうち、保有する現金は、前年同期と比べ5.2%増の101兆円と過去最高となった。100兆円を突破したのは初めて。また、預金は4・8%増の955兆円だった。
同統計によれば、新型コロナ禍であっても、個人の現預金が順調に増加していることになる。もちろん、コロナの影響でさまざまな消費が抑制されたという側面があったことに加え、政府が昨年、国民1人あたり一律10万円を支給した特別定額給付金がタンス預金などに回った可能性がある。いずれにしても、マクロでみれば個人の現預金は減少した状況にはなっていない。
こうした状況の前提となる雇用・所得環境は、それほど悪化していない。雇用者数は、昨年6月を底に増加傾向で推移し、今年1月は昨年6月に比べ66万人増加している。
また、昨年4月に460万人増加した休業者は、8月以降平年並みの水準まで低下したものの、今年1月は35万人増加している。
一方、個人の現預金状況と同様になるが、2020年の家計の収入をみると、特別定額給付金の効果もあり前年比で増加している。
これらの数字をみれば、もちろん、感染拡大以前の水準には戻っていないのだが、コロナ禍により悪化の一途をたどっているわけではないことが分かる。
だが、これは全体像で、もう少し細部をみれば問題も浮き彫りになる。特に注意したいのが女性の雇用だ。女性は、正規雇用の増加が続いているのだが、その一方で、非正規雇用が大幅に減少している。特に35~54歳の減少幅が大きく、同年齢層では正規雇用の増加を非正規雇用の減少幅が上回っている状況だ。
女性の正規雇用の増加は、同一労働同一賃金導入を見据えた動きの顕在化で、歓迎すべきことなのだが、非正規雇用の減少の中心は宿泊・飲食業で、新型コロナの影響をもろに受けた状況だ。
こうした状況があるため政府は先ごろ「非正規雇用労働者等に対する緊急支援策」をまとめている。ひとり親や低所得の子育て世帯に対し、子供1人当たり5万円を給付したり、一定の所得を下回る人に対し、月々10万円の給付金付き職業訓練の対象を拡大したりする。また、緊急小口など新規の貸付を4月以降も継続し、住民税非課税世帯については、来年以降、返済を免除するという。
マクロでみれば個人の経済環境は悪化の一途をたどっているわけではない。新型コロナが収束すれば、現預金が消費に向くことも予想できる。それだけに一刻も早いコロナの収束ができるかどうかが、日本経済の先行きを示すことになる。
(terracePRESS編集部)