ワクチン接種「遅い」と言える理由は
新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が順調に進んでいる。菅首相は1日100万回の接種を目指して進めているが、市町村の接種に加え大規模接種センターや職域接種も加わり、今後、一層の拡大が見込まれている。しかし、マスコミの世論調査では日本のワクチン接種は「順調ではない」という評価が圧倒的に多い。マスメディアが事実をありのままに伝えず、それにより国民が間違った認識を持つ典型のようだ。
毎日新聞などが19日に実施した全国世論調査では、日本の接種が順調に進んでいると思うかについて、「思わない」が52%に上り、「思う」は27%で、「どちらとも言えない」は21%となった。
共同通信の世論調査では、ワクチン接種に関する政府のこれまでの取り組みについて「遅いと思う」としたのが68.0%で、「順調だと思う」は30.1%だったという。
また、時事通信の世論調査でも同様にワクチン接種については、「遅い」が69.4%で、「順調だ」は20.0%、「どちらとも言えない・分からない」は10.5%だった。
さて、この手の調査で「順調か」否かと問われても、何を基準として順調に進んでいるかどうか、遅いかどうかは分からない。評価する基準は自分の接種の順番か、または日常的に入ってくる接種に関する情報、すなわちメディアの報道ということになるだろう。
自分の接種の順番であれば、現在、接種を受けているほとんどが医療関係者や高齢者だから、それ以外のより若い人たちにはまだ順番は回ってこない。だから当然、遅いと感じるのかもしれない。
そしてもう一つの要因はメディア報道だ。「アナウンスメント効果」と呼ばれる現象がある。メディアによる報道がもたらす心理的な影響で、人々の行動が変化することだ。
つまりメディアの報道によって、人々がそれを信じ、それによって行動が変化する現象だ。例えばこうした世論調査の回答にも影響してしまう。
確かに、日本のワクチン接種は2月からスタートし、他の先進国と比べて約2カ月遅れたことになる。しかしこれは、日本ではワクチンの承認をめぐって安全性を優先させるため、日本人での治験を義務化しており、その国内治験が終わるまでまたなければならなかったという事情もある。
また現在、ワクチン接種が進んでいるのは中国、米国、インド、ブラジル、英国、ドイツ、フランス、イタリアなどで、中国を除けば、日本とは比較にならないほどの死亡者を出している国々だ。そうした国々がワクチンをいち早く入手してなんとか感染者、死亡者を抑制したいと考えるのは当然だ。
日本がそうした国々に先んじてワクチンを入手しようとしたかどうかは分からないが、そのような国々を押しのけて入手しようとしても、無理があるのではないか。
メディアはこれまで、そうした事情はほとんど伝えないまま、ワクチン入手が遅れている、接種をめぐる作業もさまざまな問題が噴出しているといわんばかりの報道を続けてきた。
その上で、比較の基準もないままに「順調か」「遅れているか」などと世論調査で質問し、その結果、「7割が『遅い』と判断」といったような見出しで再度、報じているのだ。