ALPS処理水で国際社会の理解を
政府は先ごろ、東電福島第一原発の処理水の海洋放出をについて「ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚会議」を開き、当面の対策をとりまとめた。基金を設けて風評被害が生じた水産物を国費で買い取ることなどが柱だ。国内の理解促進は当然だが、海外各国で風評被害を起こさないようにすることが不可欠だ。
同原発の処理水は〝汚染水〟と思われているが、現実には多核種除去設備(ALPS)などを使い、汚染水から放射性物質の大部分を取り除いており、これをALPS処理水と呼んでいる。
この処理水にはトリチウムが残っているが、トリチウムは水素の仲間で、人間の体内に普段から存在しており、規制基準を満たしていれば環境や人体への影響はないとされている。トリチウム以外の放射性物質が残存していた場合は、濃度が規制基準を下回るまで浄化することが決まっている。
今回の取りまとめでは、福島を始め、各地で開催したワーキンググループの会合の意見を踏まえ、風評や安全性に関する懸念を払拭するため、「IAEA(国際原子力機関)による安全確認の強化」や「風評影響の実態把握と適正取引の実現」などを実施する。
その上で、万が一風評が生じた場合は、緊急避難的措置として「水産物を対象とした基金の新設」など追加的な対策を盛り込んでいる。
例えば、「国際機関等の第三者による監視及び透明性の確保」を実現するために、①IAEA等国際機関による安全性の確認や情報発信等への協力②処理水の分析等に対する地元自治体・農林漁業者等の参画③放出前の処理水の性状や放出後のモニタリング結果等の安全に係る丁寧な情報公開などを実施する。
また、国際社会への戦略的な発信のために、「IAEA等国際機関による安全性の確認や情報発信等への協力」のほか、①各国・地域、市場関係者への安全性に係る説明の徹底。日本の対応への理解を深めるための視察機会の提供②海外の報道機関や科学者・有識者、インフルエンサー等に対しての情報提供を実施③農林水産物・食品に対する輸入規制の緩和・撤廃に向けて、相手国政府への丁寧な説明の実施などを想定している。
東京電力は8月25日、海洋放出について原発の沖合約1キロに海底トンネルを通して放出する計画を公表している。沖合案は国内外で実績があり、より拡散しやすいなどの理由から採用したという。本年度中にも工事を始め、放出開始時期と見込む2023年春までの完了を目指す。
このトンネル案について、韓国政府はいち早く緊急会議を開き、「持続的な撤回要求にもかかわらず海洋放出を推進した」と、一方的な措置として深刻な懸念を表明している。
これから2023年春までこの問題についての対日批判はますます強まるだろう。
対策に盛り込んだ、さまざまな施策を実施することで、一刻も早く国際社会の理解を得ることが重要だ。
(terracePRESS編集部)