求められるコミュニケーションの強化
新型コロナウイルス感染症対策をめぐっては、菅首相をはじめ政府の情報発信のあり方が問われた。もちろん、人口や経済規模などを考えれば、日本はG7の中でも極めてうまくコロナ対策を行ってきたのが実情だが、それでも新型コロナは政府のコミュケーションのあり方を見直す契機となった。次期自民党総裁、次期首相は政府のコミュニケーションの強化に取り組むべきだろう。
改めて指摘するまでもないが、日本は新型コロナ対策に大きな失敗をしたわけではない。例えば、9月5日現在で先進各国の感染状況をみると米国は感染者が約3990万人(死亡者約65万人)、英国は約697万人(約13万人)、フランス約669万人(約11万人)、イタリア約457万人(約13万人)、ドイツ約401万人(約9万人)だ。これに対して日本は約155万人(1万6360人)にとどまっている。
言うまでもないが、日本はこの間、さんざん野党やメディアが批判した東京オリンピック・パラリンピックも1年遅れとはなったものの無事開催するという世界的な約束も果たすことができた。もちろん感染者が出て、亡くなった人が1万人以上もいることは事実で極めて残念なことだが、こうしたことを考えれば、安倍政権、それに続いた菅政権の感染対策は他国と比べて劣っていたということではない。
とはいえ、感染対策をめぐって政府のコミュニケーションのあり方に疑問が出たことも事実だ。
米国疾病予防管理センター(CDC)では、緊急時のリスクコミュニケーションのあり方として①情報発信は迅速に行うこと②発信する情報は正しい情報であること③発信する情報に信頼を得ること④人々への共感を表すこと⑤人々の行動を促進すること⑥人々に敬意を払うことを原則としている。
そして、こうした原則を貫くものは「分かりやすさ」であり、「情報への接しやすさ」だ。どんなに分かりやすく情報を発信したとしても、それが届かなければ意味がない。この二つを行うことで、コミュニケーションが成立する。
菅首相の情報発信力を問う意見があったが、もちろんこれは菅首相個人だけの問題ではない。菅首相に必要だったのは、コミュニケーションを政府として強化するというリーダーシップだったのだ。
新型コロナをめぐっては感染症対策分科会のミッションに「リスクコミュニケーションのあり方」の検討があるが、ほとんどなされていないのが実態だろう。政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」でも「〇〇を周知する」との文言はあるが、「誰に(どの階層に)」「どんな表現で」「どんなツールを使って」という問題意識はまったくない。
コミュニケーション力の重要性は新型コロナに限ったことではない。外交もそうだし、国内の政策課題でもますます不可欠になる。新総裁、新首相はコミュニケーションの重要性を認識し、「伝える」という意識から「伝わる」情報発信への転換が必要となる。
(terracePRESS編集部)