お粗末すぎる立憲民主党の「アベノミクスの検証と評価」
立憲民主党が先ごろ、安倍前首相の経済政策「アベノミクス」についての検証結果なるものをまとめた。作成したのは「立憲民主党アベノミクス検証委員会」という大げさなものだが、その報告書はA4の紙に1枚半という薄っぺらさ。中身も立憲民主党にとって都合のいいところをつまみ食い。これで「検証した」というのは世の中に通じない。
「報告書」は総合評価として「格差や貧困の問題の改善にはつながらなかった。一方、実質賃金は下がり続け、二度にわたる消費税増税がそれに追い打ちをかけ、GDPの半分以上を占める消費の低迷が続いている。これが、日本経済が混迷から抜け出せない最
大の要因である」として①実質賃金の低下②消費増税(2 回)が家計を直撃③ミリオネアー(億万長者)、貯蓄ゼロ世帯の増加④産業競争力、潜在成長力の低下などとしている。
さて、報告書では枝野代表が言うように実質賃金が低下したことをアベノミクスの失敗と明確に位置づけている。
確かに、実質賃金は低下したのだが、立憲民主党は実質賃金の低下について、例えば10万円の賃金が9万円になったかのように喧伝している。たぶん、立憲民主党はそれが違うことを分かっていながら、誤った情報を拡散しようとしているのだろう。
実質賃金は、現金給与総額の伸び率から、物価上昇率を差し引いた正味の賃金上昇率を指すものだ。例えば、給与100万円の人が定年退職し、新たに10万円の人が就職すると現金給与総額は10万円になる。伸び率もマイナスだ。ここから物価上昇率を差し引くものが実質賃金になるわけだが、このケースでは当然、マイナスになる。
アベノミクスのプロセスでも、このようなことが起こったのだ。つまり、高齢化により男性現役層の減少とともに、一般的に男性現役層に比べて平均賃金が低く労働時間の短い非正規の女性や高齢者の労働参加率の高まりにより実質賃金も低下したのだ。
安倍政権が発足した2012年からの就業者の推移をみると、12年に6280万人だったが、その後増え続け、19年には6724万人に達している。もちろん、この間、給与が高い高齢者の退職と、新たな労働者の参入が起こっており、それが実質賃金の低下を招いた要因になっていたのだ。
要するに、実質賃金の低下について結論ありきでまとめているわけだ。立憲民主党アベノミクス検証委員会は「ジニ係数」を引き合いに出して「ジニ係数の改善、すなわち分配による格差是正がどのくらい進んだか、という国際比較を見ても、欧米と比べ日本は極端に改善率が低い」とアベノミクスの失敗も訴えている。欧米と比べるなら「改善した結果」が普通だろうが「改善率」という意味不明の指標を持ち出しているのだ。
確かに、日本は2000年代に入ってジニ係数が0.5台で推移しているのだが、所得再配分後には0.36~0.38台となっており、改善後の格差が進んでいるわけではない。
こんなことは立憲民主党も理解しているだろうがそこには目をつぶり、アベノミクスを批判するために、数字のつまみ食いを重ねている。立憲民主党はこの報告書を元に経済政策を策定すると言うが、そこから生まれる政策は国民を不幸にするだけだろう。
(terracePRESS編集部)