TPPと国内農業
太平洋地域11カ国による環太平洋経済連携協定(TPP11)が昨年12月30日午前0時に発効した。まずは、参加する11カ国のうち国内手続きを終えているメキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリアの6カ国の域内で適用され、残る5カ国も順次発効していく。
TPP11は域内人口約5億人、域内の国内総生産(GDP)が約10兆円という巨大経済圏になる。関税の引き下げや撤廃など、日本の消費者にとって極めてメリットがあり、例えば輸入牛肉にかかる関税は現在の38.5%から段階的に低減し、16年目には9%になる。
また、今回発効対象となった国から日本に輸出される果物や野菜の一部などでは関税が即時撤廃されており、消費者はすぐにでもTPP11の恩恵を受けることができる状況となっている。
さて、安価な農作物が輸入されることは消費者にとって大きなメリットとなるが、その一方で不可欠なのが国内の生産者対策だ。
TPPとは関係なく、国内農業は担い手の高齢化が進んでおり、それに加えて安い農産物が輸入されるとなれば、国内農業の脆弱化は避けられない。
このため、国内農業の強化を促進しなければならないが、2019年度予算でもさまざまな事業が用意されている。
例えば、担い手の高齢化や減少で人材確保が喫緊の課題となっている中、農業が選ばれる職業となるよう、農業の「働き方改革」を進める「農業の新しい働き方確立支援総合対策」には約220億円を確保し、現在の労働環境に満足している雇用者の割合を現状約5割から8割以上に増加させる方針だ。
また、農林水産業の輸出力を強化するため、海外需要の創出やグローバル産地の形成、輸出環境の整備等を推進する「農林水産業の輸出力強化」を図り、2017年で約8000億円だった輸出額を、2019年には1兆円にするという。
ドラマ「下町ロケット」では無人トラクターの開発がテーマとなったが、このようなロボット・AI・IoTなどの先端技術を活用した「スマート農業」の展開を加速化するため「最先端の『スマート農業』の技術開発・実証」も促進し、2025年には農業の担い手のほぼ全てがデータを活用した農業を実践できるようにするという。
もちろん、農業の生産性を高め、競争力を強化するための担い手への農地集積や集約化が必要となるため、それらを加速化する事業に約300億円を計上している。
メディアなどにはTPPの結果、日本の農業の脆弱化は避けられないとの指摘もある。しかし、それはTPPか国内農業かの二者択一ではないはずだ。TPPによって消費者が恩恵を受けながら、足腰の強い国内農業を育成することは決して不可能ではない。事実、安倍政権もそのような方向を目指しているのだ。