決して「愚策」ではなかった安倍政権の布製マスク
新型コロナウイルス感染症の対策の一環として、2020年4月から当時の安倍政権が全国に配布したガーゼ製の布マスクについて、岸田政権が保管分を希望者に配った上で、余った分を本年度内に廃棄する方針を打ち出した。野党やメディアなどは同マスクを「アベノマスク」などと揶揄し、現在も「愚策」などと批判するが、未知のウイルスが蔓延する中でのマスク配布という政策は本当に愚策なのか。
新型コロナウイルス感染症は2020年の春先から拡大し始め、感染対策として有効と考えられたマスクが市中から消えた。ドラッグストアなどには開店前からマスクを求める人が行列を作った。
また医療現場でもマスク不足のため感染対策が不十分となる事例が報告されるようになった。
マスクを入手できないことが人々の不安を招き、マスクを求める行列などをテレビなどメディアが報じることで、人々の不安をさらに煽った。当時はそんな状況だったのだ。
当時はマスクの国内生産が少なく、中国製の輸入が多かったが、国内のマスク需要が一気に増えると同時に輸入が極端に減少するなど需給が逼迫したわけだ。
そうした中で、安倍政権は4月7日にマスクの全国配布を閣議決定し、全国で順次配布が行われ、6月下旬には、配布が完了した。
当時、政府は、一般的に使われている「不織布マスク」を医療機関へ優先的に回し、一般市民には「布マスク」を繰り返し使用させることで医療機関のマスクを確保しようと考えたとみられるが、もちろん、布製マスクだけが政府の対策だったわけではない。
「不織布マスク」の確保も進めており、企業へ補助金を出すなどして「不織布マスク」の増産体制の構築を懸命に進めていた。事実、当時の安倍首相は20年4月1日に開いた第25回新型コロナウイルス感染症対策本部会合で、3月に通常の需要を上回る月6億枚を超える供給が行われた「不織布マスク」などの供給を、月7億枚を超える供給を確保する見込みであることを表明している。同時に、全国の医療機関に対し3000万枚のサージカルマスクを配布している。
野党やメディアが「アベノマスク」などと揶揄した布製マスクは、そうした対応の上での配布だったのだ。
使われなかったことが批判の対象となったが、市中でのマスク販売が促進されるような政策誘導も行った結果、緊急避難的な布製マスクが使われなくて済んだのだ。
先ごろの臨時国会では、参院本会議での代表質問で立憲民主党の杉尾秀哉氏が布製マスク配布事業について「布マスクの今後の使途を含め、世紀の愚策のツケをどのように払うつもりか」と述べた。
まだ得体の知れない未知のウイルスによって国民の安全、安心が脅かされる恐れがある中で、布製マスクを配布したことは決して「愚策」ではない。危機管理はさまざまな事態を想定して、対策を構築することが不可欠だ。
結果として、「不織布マスク」が市中に出回り始めたことで布製マスクはあまり使われなかったかもしれないが、政策としては決して間違いではない。
(terracePRESS編集部)