国家の〝危機〟にリアルな受け止めが必要
取引先部品メーカーがサイバー攻撃を受けたトヨタ自動車が1日、国内すべての工場の稼働を停止した。稼働停止は1日限りで2日からは再開した。ロシアのウクライナ侵攻ではウクライナへのサイバー攻撃が行われたとされるが、日本でも現実に企業などが被害に遭っている。サイバー攻撃などの被害は直接目にすることはできないが、国民がリアルな脅威として認識する必要がある。
トヨタ自動車へのサイバー攻撃は取引先の小島プレス工業が受けたもの。これによるトヨタは国内の14工場すべてで稼働を停止し、国内の月間生産台数の約5%に相当する約1万3000台に影響が出たとされている。
ロシアのウクライナ侵攻ではハイブリッド戦が行われたという。軍事力のほか、サイバー攻撃やフェイク情報の拡散も含めた情報戦略が複合的に行われ、注目を集めた。
トヨタへのサイバー攻撃は、身代金要求型の〝ランサムウェア攻撃〟とみられ、その他の国内企業も国内外で被害を受けている。
このため、トヨタへの攻撃とウクライナ侵攻は直接的な関係はないと判断するのが合理的なのだろうが、それでもロシアへの制裁などに参加している日本の企業がターゲットになって攻撃される可能性も否定できない。日本の企業などがそうした脅威にさらされていることは確かだ。
松野官房長官も会見でこの点について「ウクライナ情勢を含む昨今の情勢から、サイバー攻撃事案のリスクは高まっており、DDoS攻撃やランサムウェア攻撃などによる企業への被害が発生する懸念が強まっている」と警告を発している。
経済産業省も「政府機関や重要インフラ事業者をはじめとする各企業・団体などに「組織幹部のリーダーシップの下、サイバー攻撃の脅威に対する認識を深める」よう求める「サイバーセキュリティ対策の強化について注意喚起」を発している。
脅威というのは、国民が肌で感じることができないものだ。サイバー攻撃などネットワーク上で行われる攻撃は、関係者以外目にすることはできない。仮にある企業が攻撃されても、場合によってはほとんどの社員はそれを実感として認識することはできないかもしれない。
実は、国家への脅威を国民が実感し、認識することはなかなか難しいことだ。サイバー攻撃に限らず、日本の領空が他国から侵犯されても、対処する航空自衛隊は分かるが、一般国民はほとんど知らないまま日常生活を続けている。たまにニュースなどで伝えられることがある程度で、それをリアルな危機として受け止める国民はほとんどいない。
尖閣諸島にしてもそうだ。中国の公船が領海侵入しても、ニュースで伝えられるにせよ、それが危機感にはならない。ましてや政府がこうした事態にそなえるために防衛予算を拡充すると、野党やメディアがそれを批判するのが日本社会だ。
ウクライナへのロシアの侵攻は遠い欧州で発生したもので、なかなか国民が等身大の出来事として受け止めることはできない。しかし、侵略したロシアは日本の隣国だ。そして、もう1つの隣国である中国は急激に軍事力を増強している。そうした危機をリアルに受け止めることが重要だ。
(terracePRESS編集部)