国民を混乱させるのはメディアの不勉強
民放テレビの情報番組と言えば、素人のコメンテーターや不十分な取材、政府批判ありきの姿勢など、冷静かつ有益な譲歩を国民に提供しているとは思えない。新型コロナウイルス感染症の拡大という未曽有の事態だからこそ、真に必要な情報が求められるはずだが、現実は、不安を煽ったり、一方的な見方の情報ばかりだったりする。こうした民放テレビの姿勢では国民は混乱するばかりだ。
テレビ朝日系の「羽鳥慎一モーニングショー」はその代表例だろう。3日に放送された番組では、コメンテーターの玉川徹氏が、リモート出演した新型コロナウイルス感染症対策分科会メンバーで、日本医師会常任理事の釜萢敏氏に質問をぶつけた。玉川氏とすれば〝追及する〟という気分だったのかもしれない。
玉川氏は釜萢氏に「僕らは専門家の人の意見を届けてほしいんですけど、必ず経済のバランスをとるっておっしゃる。それは政治が考えることであって、専門家の方が考えることではないと思う。しかし、必ずその話をおっしゃる。だから逆に不安になる」などと疑問をぶつけている。
釜萢氏はこれに対し「緊急事態宣言を出した時のように、すべての生活に自粛をお願いすれば感染が抑えられることはわかっている」「感染拡大の防止という観点から、それだけをお願いすれば我々は役目を果たせるんだろうかと、それだけでは具体的な解決策を提示したことにならないという風に考えている」と答えている。
玉川氏は、経済とのバランスをとりながら感染拡大防止を進める分科会のやり方が気に食わないのだろう。釜萢氏は玉川氏の質問に真摯に応えているが、そもそも玉川氏は、分科会の役割を医学、医療の専門家として政府に提言するものと誤解しているのだろう。
分科会は新型インフルエンザ等対策有識者会議に設置されたもので、この有識者会議は、意見を内閣総理大臣に対し述べることができる。しかし「有識者会議の長が認める場合は、分科会の議決をもって有識者会議の議決とすることができる」から、事実上、分科会が首相に意見を述べることができる。
分科会の検討事項は「新型コロナウイルス感染症対策に関する事項」とされているが、具体的な項目としては感染動向のモニタリングのほか、「検査体制、医療提供体制の強化」「保健所機能・サーベイランス等のあり方」「市民生活、事業活動における留意事項」「リスクコミュニケーションのあり方」「研究推進体制や疫学情報共有のあり方」などとされている。「市民生活、事業活動における留意事項」とあるように、決して医学上の感染防止策だけでなく、社会生活、経済活動とバランスを取りながら感染拡大防止を検討するのが分科会の役割だ。
そのため分科会のメンバーには労働界やマスコミ、弁護士、県知事もいる。事実、7月16日の分科会では「当面の間は、積極的に東京都から他の道府県への移動及び他の道府県から東京都への移動を支援するGO TO トラベル事業を行うことについては延期すべきである」との提言をまとめ、政府はこれに基づいて判断している。
こうした分科会の背景を知っていれば、玉川氏のように、経済とのバランスをとることは「専門家の方が考えることではないと思う」との発言にはならないだろう。分科会は分科会の役割を果たしているのだ。
(terracePRESS編集部)