ワクチン接種を世界的に見ると分かること
東京と大阪に設置された新型コロナウイルス感染症を予防するワクチンの大規模接種センターでの接種が24日にスタートした。ワクチンを巡っては、政府の対応について「後手、後手」「日本の敗北」などさまざまな批判が出ている。個人としてはいち早く接種を済ませたいと思うのは当然で、日本という国を考えても早急に接種を終了させることが必要だろう。しかし、ワクチンが限られている中で、それでも日本は失敗したのだろうか。
大規模接種センターは、国の設置以外でも各都道府県が開設する見込みだ。政府は地方自治体の接種と合わせて、1日当たり100万回の接種が目標で、7月末までに高齢者への接種を終了する方針だ。
そうした中で、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が先ごろの年次総会で、新型コロナの感染状況について「世界は依然として非常に危険な状態にある」と述べ、世界のワクチン接種の75%が、わずか10カ国に集中している点を挙げ、「恥ずべき不公平だ。ワクチンを手にした少数の国々が、世界のその他の命運を左右している」と批判した。
テドロス事務局長が指摘した10カ国がどの国かは不明だが、オックスフォード大の集計によると、世界のワクチン接種回数は、25日現在で中国が約5億5千万回と断トツでトップだ。次いで米国約2億9千万回、インド約1億9千万回、英国約6千万回、ブラジル約6千万回、ドイツ約5千万回、フランス約3千万回、トルコ約3千万回、ロシア約3千万回などとなっている。
国民100人当たりの接種回数をみるとまた別なランキングになるが、絶対数でみればこのように中国、米国、インドといった順となっている。
では、なぜこれらの国々の接種回数が多いのか。この各国の死者数をみると、中国が約5千人と非常に少ない犠牲者数にとどまっているが、それ以外は最も犠牲者を出した米国が約59万人、インド約31万人、英国約13万人、ブラジル約45万人、ドイツ約9万人、フランス約11万人、トルコ約5万人、ロシア約12万人などとなっている。
中国を別にすれば、死者数の多い国々のワクチン接種回数が多いということになる。死者数と接種回数は比例的な傾向となっているわけだ。
犠牲者が多かった国がワクチン確保に懸命になるのは当然だ。テドロス事務局長の指摘のように10カ国で75%を占めることは適切とは言えないし、だからこそWHOなどの主導でワクチンの公平な分配を目指す国際的な枠組み「COVAX」が2月以降に供給したワクチンは125カ国・地域に対し7200万回分に過ぎなかったのだろうが、そうした状況になるのはある意味当然の帰結だ。犠牲者の多い国は、開発途上国などを後回しにしても、自国を優先させたのだ。
このような状況の中で、日本がここに示した国々と競合しながらワクチンを確保することは非常に困難なことも理解できる。そういう意味では「後手」や「敗北」といった批判は一方的な指摘に過ぎないことも、また事実だ。
(terracePRESS編集部)