人への投資などで労働生産性上昇図る菅政権
菅政権は先ごろ開いた成長戦略会議で、新たな成長戦略の素案となる「成長戦略実行計画案」をまとめた。グリーンやデジタル化などを成長の原動力とする一方、「自律性の確保と優位性の獲得を実現していく必要がある」として経済安全保障について総合的・包括的に進める方針を盛り込んだ。また、生産性の向上につながる「人」への投資の強化も促進し、今後の成長を確実なものとする方針だ。
素案は「成長戦略によって労働生産性を向上させ、その成果を働く人に賃金の形で分配し、労働分配率を向上させることで、国民の所得水準を持続的に向上させる。これにより、需要の拡大を通じた成長を図り、成長と分配の好循環を実現する」と表明している。菅首相も同会議で「成果を賃金によって分配し、労働分配率も向上させ、消費の拡大を通じて、力強い成長を実現する」と述べている。
国際間の競争が激しくなる中で、2010年代の日本の労働生産性の伸び率は年0.3%であり、G7各国の中ではイタリアに次いで低かったとされている。経済成長率の上昇には、労働参加率と労働生産性の向上が必要だが、その鍵はイノベーションだ。
グリーンやデジタル化などでイノベーションを起こし、労働生産性を上昇させ、それによって労働者の実質賃金の上昇を果たし、消費を拡大することが必要だ。
野党には、労働者への分配を増やすことだけに力点をおいた主張が散見されるが、こうした政策はすぐに行き詰まるだろう。
素案は、脱炭素化について2030年までに燃料電池車用水素ステーションを現在の約150基から1000基に増やす考えを示した。
電気自動車向けの急速充電設備の整備についても、「充電設備の不足は、電気自動車普及の妨げとなる」とし、急速充電設備を3万基設置し、遅くとも2030年までにガソリン車並みの利便性を実現することを目指す。
人への投資に関しては、フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、事業者とフリーランスの取引について書面での契約のルール化など法制面の措置を検討する。多様な働き方や新しい働き方のニーズに応え、企業における兼業・副業の選択肢を提供するとともに、短時間正社員等の多様な正社員制度の導入も促進するという。
また「コロナ禍と長期化・構造化する米中対立によって、グローバルなサプライチェーンの脆弱性や、国家・地域間の相互依存リスクが顕在化した。国際環境の変化を受け、各国は前例のない規模の国費を投じ、経済安全保障の観点から重要な生産基盤を自国に囲い込む政策を展開している」との認識を示し、経済安全保障に関する施策を総合的、包括的に進める考えを示している。
日本は新型コロナの影響が欧米各国より抑制されたにも関わらず、社会には閉塞感が満ちている。ポストコロナで成長軌道に乗せられなければ、成長の確保は難しくなる。だからこそ、これからの成長戦略とその実行が重要で、国民の将来はそれにかかっている。
(terracePRESS編集部)