「新しい資本主義」でスタートアップ企業を支援
政府は先ごろ、「新しい資本主義実現会議」の第5回会合を開き、コロナ後に向けた経済システムの再構築などについて議論した。スタートアップの育成に向け、官民の役割分担をした上で5カ年計画を作成、実行のための司令塔機能を明確化することなどを打ち出し、6月にも決定する新しい資本主義の実行計画に盛り込む方針だ。
「新しい資本主義」は岸田首相の看板政策だが、「岸田政権『「新しい資本主義』どこへいった? 会議開催4回だけの体たらく」(AERA dot.)など一部のメディアに批判する向きもある。
しかし、経済成長を実現するために成長力の強化や生産性の向上を図り、それを次の成長に向けた分配に結びつけるというものが「新しい資本主義」だ。このため、検討分野は経済財政政策や企業経営、社会の再構築など幅広い分野が対象となる。いわば社会の構造改革だ。新しい社会を構築するのは拙速になってはいけないのだ。
もちろん、これまでも経済対策に盛り込むための緊急提言や「賃金・人的資本」「科学技術」などを議論しているし、ワーキンググループを設置して個別に検討もしている。
そうした中で、今回のスタートアップ育成は、日本の今後の経済成長にとっては重要な視点だ。一般的には、企業の参入率・退出率の平均が高い国ほど、1人当たりの経済成長率が高いとされているが、日本の場合はベンチャーキャピタル投資額が極端に小さい。例えば、2021年のベンチャーキャピタル投資は、米国が約1万7100件、計約36兆2000億円なのに対して、日本は約1400件、計約2300億円に過ぎない。
また日本の開業率は米国や欧州主要国と比べて低く、2018年で英国が13.5%、フランスが10.9%、米国が9.1%なのに対して、日本(2019年)は4.2%。
スタートアップに対するM&A(企業の合併・買収)も、日本は2018年で15件に過ぎず、米国の約1%にとどまっている。
このように日本のベンチャー企業の創出は海外先進国に比べ大きく立ち遅れているのが実態だ。
このため、「新しい資本主義実現会議」ではベンチャー企業の育成促進策などが議論され、海外からの誘致も含めたベンチャーキャピタルへの公的資本の投資拡大に加え、個人金融資産やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの長期運用資金がベンチャーキャピタルやスタートアップに循環する流れを構築する方針を決めた。
また、信用保証を受けている場合に、個人保証を不要とする見直しを図るとともに、不動産担保によらずに成長資金を調達できるようにする方針も打ち出した。
さらに、海外の大学誘致を含め、スタートアップが集積するキャンパスづくりを進めたり、人材面では、優れたアイデア・技術を持つ若い人材への支援策を抜本拡充したりするという。
「新しい資本主義」では「費用としての人件費から、資産としての人的投資」への変革を進めることが重要と位置づけられているが、非財務情報の株式市場への開示強化を進めるため、企業側がどのように開示を進めればよいのか参考となる指針を、今年の夏を目途に整備することを打ちだした。
6月にも決定される新しい資本主義の実行計画では、日本の経済社会の改革の姿が描かれる。それをどう実行するかが、日本の未来にとって重要となる。
(terracePRESS編集部)