傍観はしない中国の国家安全法制
中国による香港への国家安全法制導入をめぐり、共同通信が6月7日、米国、英国、オーストラリア、カナダの4カ国が発表した中国を批判する共同声明について、声明への参加を打診された日本政府が参加を拒否していたとの記事を配信した。
この記事を基にサッカー元日本代表の本田圭佑選手が「中国批判声明に日本は参加拒否って何してるん! 香港の民主化を犠牲にしてまで拒否する理由を聞くまで納得できひん」などと発言したこともあり、日本政府がこの問題にさも傍観しているかのような情報が拡散した。多くの国民が「共同声明への不参加=傍観」と理解したことだろう。
そもそも、日本政府に対する共同声明への参加呼びかけがあったかどうかは分からない。
菅官房長官は8日の記者会見で共同声明への参加の打診の有無を問われたが「外交上のやりとりについてひとつひとつお答えすることは差し控える」にとどまっている。
それは当然だ。外交上のやりとり、この場合「打診があった」「打診はなかった」とどちらを述べても、相手国に影響してしまう。外交というのはそういうものだ。だから、共同通信の記事の真偽は確認できない。
打診があったかどうかは不明ということになるが、しかし、4カ国の共同声明に参加しなかったことは事実だ。しかし、だからといって日本政府が中国政府になんらの対応もしていない、つまり傍観していたというのはまったく事実ではない。
現実には、外務省の秋葉事務次官が5月28日、中国の駐日大使を外務省に呼び、中国が国家安全法制の導入を決めたことに対し「深く憂慮している」とする日本の立場を伝えている。
また、菅官房長は同日の会見で、「国際社会や香港市民が強く懸念する中で議決され、情勢を深く憂慮している」「香港は、緊密な経済関係と人的交流を有する極めて重要なパートナーで、一国二制度のもと、自由で開かれた体制が維持され、民主的・安定的に発展していくことが重要だ。中国側には、外交ルートを通じ、わが国の一貫した方針を伝えており、引き続き状況を注視するとともに、関係国と連携しつつ適切に対応していく」と述べている。
日本政府は関係各国の中でもいち早く、民主的な香港の維持に向けた行動をとったのだ。
それだけではない。安倍首相は6月10日の衆院予算委員会で、「G7は自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値を共有する国々が集まり、世界をリードしていくということに大きな意義を持っている」「日本がG7の中で声明を発出していく考えのもとにリードしていきたい」と述べ、国家安全法制導入をめぐるG7の共同声明作成を日本政府としてリードする考えも示しているのだ。
まるで日本が中国に配慮して、国家安全法制導入を容認するかのような論調や解釈があるが、それこそ単に無理解に基づいたものと言えるだろう。
(terracePRESS編集部)