政府主導で学術会議改革を
日本学術会議は先ごろ、国の特別機関である現行の組織形態を「ふさわしいもの」とする報告書案を公表した。学術会議を巡っては、菅首相が新規会員候補者6人の任命を拒否したことで、野党などから「学問の自由の侵害」といった筋違いの批判が出たが、問題の本質は、同会議が重要な責務すら果たしていないなど組織のあり方にあった。学術会議自体が自ら改革する機会を放棄したからには、政府主導で改革するしかない。
任命拒否をした菅首相は当時、「推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲して良いのか」と述べている。学術会議が推薦した人物をそのまま任命してきたのがこれまでの政権で、その前例を必ず踏襲することで良いのかという問題意識だ。
これは裏を返せば、学術会議は、自ら推薦した会員候補者はそのまま任命されるのが当然と解釈していたということに他ならない。学術会議は学者の組織とはいえ研究機関ではなく、政府機関の一つだ。会員の任命に政府が判断するのは当然だが、それを判断することを異常と捉える組織になっていることが異常なのだ。
新規会員候補者を、現在の会員が事実上、自分の後任に指名する事も可能な仕組みとなっているため、研究者の既得権益ともなり得る。
また、任命問題に伴い同会議が、法律に基づく政府への勧告を2010年8月の「総合的な科学・技術政策の確立による科学・技術研究の持続的振興に向けて」と題したもの以来行っていなかったなど、重要な責務さえ果たしていなかったことも明らかになった。
こうしたさまざまな問題を抱えた組織だからこそ、組織改革が不可欠となったわけだが、その改革について学術会議がまとめた報告書案では、これまでの歴史的経緯や現状の法律の規定を考え合わせると「変更する積極的理由を見出すことは困難」として、現状のまま国の特別機関であることが最も望ましいとしている。
その一方で、政府の機関ではなく、より独立性を高める独立行政法人や公益法人とした場合については、政府に勧告する公的な権限を法律に規定できるかといった課題が残ると説明している。
日本学術会議は「日本学術会議法」という法律によって設置が決まっている政府の機関となっており、経費は国庫から年間10億円程度が支出されている。今回の報告書案は、こうした自分たちの既得権益を守ることに汲々として、国民に対してどのように責任を果たしていき、どのように貢献していくのかといった視点はほとんどみられなかった。
報告書案は「変更する積極的理由を見出すことは困難」としているが、この認識がすでに学術会議外部の認識と違っていることにさえ気がついていないのだろう。
科学技術の振興は、競争が厳しくなってくる国際社会の中で、日本が現在の地位を維持するための重要な要素だ。また、経済大国として、科学技術によって人類に寄与することは日本の役割でもある。
日本の学問を発展させるために、日本学術会議を抜本的に見直し、日本の学術を活性化させるためには、もはや学術会議に委ねるのではなく、政府が主導するしかない。
(terracePRESS編集部)