トリガー条項凍結解除見送りは賢明な判断
政府は、原油価格の高騰対策の一つとして検討を進めていた「トリガー条項」の凍結解除を見送る方針という。石油元売り会社への補助金に加え、原油価格がこのところ落ち着きを見せており、現在はさまざまな影響が出ることが予測される凍結解除を行う環境にないという賢明な判断だろう。
WTI原油の価格動向をみると、1月13日に1バレル82.12ドルだったのが3月8日には123.70ドルに高騰した。こうした事態を受けてトリガー条項解除の議論が行われたのだが、原油価格はその後落ち着きを取り戻し、4月11日には94.29ドルまで下がっている。
こうした状況の中で政府は現在、石油の元売り会社への補助金を1リットルあたり最大25円支給しており、現在ガソリンは店頭価格1リットル170円前後となっている。もちろん、これでも以前より高いことは間違いないが、「政策の効果が出ている」のも事実だ。
「トリガー条項」は、原油高などでガソリン価格が高騰した場合に、ガソリン税を引き下げるもので、現在は一時凍結されているわけだが、トリガー条項を発動した場合、1年間で国で1兆円、地方で約5000億円など計1兆5700億円程度の税収がなくなる。特に、地方自治体の減収は大きく、地域に大きな影響が出る可能性もある。このため、解除した場合は税収減の分の代替財源をつくる必要もある。
また発動した場合は、買い控えや駆け込み購入といった事態を招き、流通が混乱する可能性があるほか、ガソリンスタンドの事務負担増なども考えられる。
さらに、いったん解除し、再び原油価格の低下でガソリン価格が安くなった場合、再度のガソリン税の〝増税〟が困難になるという側面もあるだろう。
いずれにしても、トリガー条項の凍結解除は、それ自体が目的ではない。現在求められていることはガソリン価格の高騰を抑えることであり、それが達成できればいいのだろう。
与党とともに凍結解除に関する協議をしている国民民主党の玉木代表は「石油元売り会社への補助金とトリガー条項凍結解除による減税措置を組み合わせて、ガソリン価格の値下げを実感できるようなハイブリッドな対策が必要」と強調しているが、「トリガー条項発動も含むトリガー条項発動並みの価格対策を行う」(国民民主の大塚政調会長)との声もある。
確かに国民生活の安定は必要で、重要なことだ。しかし、大きな影響が出るトリガー条項の解除を今やることが正しいとは言えないだろう。政策の決定はさまざまな影響を検討し、そのうえで判断することが重要だ。
それが責任ある政府の姿勢というものだろう。解除のための解除という形になるのが一番の悪手となる。それを回避したという点で、解除見送りの政府の判断は賢明だ。
(terracePRESS編集部)