中国の脅威を明確にした米国の「国家安全保障戦略」
米国のバイデン政権はこのほど、同政権初の外交・軍事戦略の指針となる「国家安全保障戦略」を発表。中国について国際秩序を変える意思と能力を持っていると指摘した。アジアの緊張は今後、さらに高まる可能性が高く、日本も安全保障の確保に向けた一層の努力が必要となっている。
「国家安全保障戦略」はトランプ前政権の2017年以来の策定。中国については「国際秩序の再構築を目指す意志と力を持つ唯一の競争相手」と位置付け、軍事や外交、経済などでの対抗を最優先に据えることを打ちだしている。
確かに、中国の軍事力増強は著しいものがあり、南シナ海の南沙諸島では実際に軍事拠点を設けるなど、国際秩序を一方的に変更している。
その上でインド太平洋地域について「21世紀の地政学上の中心」と位置づけ、「自由で開かれたインド太平洋」を推進するほか、日本については「日米安全保障条約に基づく日本の防衛への揺るぎない決意を確認する。(日米安保)条約の適用範囲には尖閣諸島も含まれる」と明記した。
尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲であることは、日米首脳会談などで時に触れ相互確認がされているが、米国の国家安全保障戦略に明記されることも意義あることだ。
一方、もちろん、同戦略は中国との関係について「紛争、新たな冷戦を望んでいるわけではない」とも指摘しており、緊張がさらに高まるような行動を抑制することも外交などのテーマにはなり得るだろうが、それでも同戦略が示したように、日本の隣国である中国が国際秩序に反する意思と能力があることは間違いない。
また、戦略はウクライナを侵略しているロシアについては「西側諸国とロシアの戦いではなく、主権や領土の一体性を尊重し、戦争によって領土を得ることを禁止するなどとした国連憲章の基本原則に関わる」との認識を示した。
この戦略にかかわらず、国際社会にはウクライナを侵略し核兵器の使用さえ公言するロシアという現在の脅威、国際秩序を変更する意思と能力がある中国という将来の脅威に直面している。
松野官房長官は、バイデン政権の国家安全保障戦略について「『自由で開かれたインド太平洋』の推進や、日本防衛への揺るぎないコミットメントを再確認しており、高く評価する」と述べているが、日本も年末に予定する戦略3文書の改定に関し、国民の安全保障を確保できるような方策を盛り込むことが求められるだろう。日本自身も努力することで、他国の協力も得られるからだ。
おりしも、ロシアがウクライナの4つの州を併合したことをめぐり開かれていた国連総会の緊急特別会合では、併合は無効だとする決議が143か国の圧倒的多数の賛成で採択されたが、討論では米国の国連大使が各国の代表に「ロシアはウクライナに侵攻しているが、明日は別の国の領土が侵されるかもしれない。次はあなたの国の番かもしれない」と呼びかけた。
日本でも、そうした脅威があることを常に理解し、自国の安全を確保するための現実の方策を議論すべき時期にきている。
(terracePRESS編集部)