内部留保で新型コロナをしのぐ国内企業
財務省が10月30日に発表した法人企業統計によると、企業の利益剰余金である内部留保は2019年度で、8年連続で過去最大を更新した。内部留保をめぐっては「投資や賃金に回さない」ことから批判も強いが、一方、新型コロナウイルス感染症では、企業が内部留保を取り崩し、労働者の賃金を支払っていた事実もある。ウィズコロナの時代になり、企業の内部留保のあり方もこれから議論されそうだ。
同統計を見ると、内部留保は全産業ベース(金融業・保険業を除く)で前年度比2.6%増の475兆161億円となり、企業が利益剰余金を積み上げていることを浮き彫りにした。製造業、非製造業別にみると、製造業が前年度比0.4%減の162兆9354億円、非製造業が4.2%増の312兆806億円となった。
内部留保が積みあがっていることついて麻生財務相は「(内部留保が積み上がる流れは)特に変わりないが、利益が出た分が労働分配率を上げることになっていない。もう少しそこらは上げることを考えてもいいのではないか」と述べている。
事実、企業が賃金に回さないことも内部留保が積み上がる要因であることは間違いない。
しかし、2020年に入り、新型コロナで苦境に直面した企業が、内部留保を取り崩したことも事実だろう。
法人企業統計によれば、企業の売上高は20年1―3月期が7.5%減、4―6月期が17.7%減となっている。中でもANAやJAL、JR各社のような輸送系の企業が大打撃を受けている。
一方、毎月勤労統計をみると、労働者への現金給与総額は一般労働者、パートタイム労働者を合わせて5月2.3%減、6月2.1%減、7月1.8%減などとなっている。
売上高の減少に比べれば、賃金の落ち込みの方が緩やかになっていることも事実で、企業が内部留保を取り崩したことが分かる。
麻生財務相はこの点について「結果論として耐えるだけの体力につながった」と述べ、内部留保の厚みがコロナ禍の直撃度合いを吸収したとの見方も示している。
つまり、この企業の行動を考えれば、これまで利益剰余金を賃金や投資に回さなかった企業が、今回の新型コロナで内部留保を活用し、企業経営の維持を図ったということだろう。
しかし、だからと言って、今回のような不測の事態に備え、今後も利益を労働分配率の向上に活用しなくてよいということではない。ウィズコロナの時代であっても、内部留保を投資や賃金に回すことで経済社会を活性化させることが企業の責務であることには変わりはない。
(terracePRESS編集部)